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日本化け物考〜雷獣

更新日:

季節は梅雨が明け、いよいよ夏真っ盛りである。
真夏といえば、照りつける太陽、というイメージを持つ人が多いが、
この照りつける太陽が、分厚い雲に遮られて空は曇り、
突如の豪雨となるのものまた、夏の1つの姿である。

この激しい雨をもたらす分厚い雲、
一般的には入道雲と呼ばれ、専門的な言葉では積乱雲という。
夏の太陽によって地表の温度が上がり、
その地表と接している空気が熱を持つ。
その熱を持った空気が風によって流され、
山にぶつかるとそのまま上昇気流となり、
上空の冷たい空気の中で、モクモクと巨大な雲を発生させる。
非常に大雑把ではあるが、これが積乱雲の発生するメカニズムである。
この巨大な雲は、その直下に激しい雨を振らせるのだが、
それと同時に激しい雷をももたらす。
夏の午後に発生する突然の豪雨、一般的に夕立と呼ばれるそれは、
激しい雷を伴った雷雨である。

この「」という自然現象。
空でゴロゴロ言っているだけならば、何の問題も無いのだが、
時折、これが地上に落ちてくる。
そう、「落雷」だ。
ゴルフ場でプレイ中のゴルファーが雷に打たれたり、
川の中でアユを釣っている釣人の竿に雷が落ちたりする事故は、
毎年のように起こっており、関係各所も注意を呼びかけているが、
近年では、野外コンサート会場などで落雷が起こり、
ファンがこれに打たれる事故なども、起こり始めた。
なんといっても、自然相手のことなので、
いつ、どこに落ちてくるかというのは、誰にも分からない。
「雷」に打たれないための有効な方策、というのも特になく、
精々がゴロゴロと「雷」の音が聞こえてくれば、
建物の中に避難する、という程度のものである。
ぶっちゃけて言ってしまえば、これでは何百年前の昔と
やっていることは変わらない。
これだけ科学が進んだ世の中になっていても、
「雷」に対する対策は、ほとんど変わっていないのである。
変わった所といえば、せいぜいヘソを隠さなくなったくらいだろうか。

21世紀の現代に至ってさえ、抜本的な対策の無い「雷」。
まだまだ科学が未発達で、迷信のはびこっていた時代には、
さぞかし恐ろしいものとして、受け取られていたであろう。
突如として地を打つ、稲光。
目も眩まんばかりの閃光は、大木を引き裂き、燃え上がらせる。
轟く轟音は、まさに世界中に鳴り響くようである。
不幸にも、これに打たれた人間は、
一瞬にして黒こげになり、命を絶たれる。
全く自然の驚異、ここに極まれり、である。

だが、昔の人は、雷雲から落ちてくるのが
「雷」だけであるとは、考えなかった。
そう。
「雷」とともに、空から落ちてくる「化け物」、「雷獣」である。
この「雷獣」は、江戸時代にはすでに広く知られた存在で、
日本中のあちこちに目撃談や捕獲談があり、
捕まえた「雷獣」を見せ物にしたり、高値で売り買いしたりもした。
この「雷獣」にしても、「鬼」や「天狗」などと同じように
ミイラとなったものが寺院などに保管されており、
こちらの方もやはり、見せ物に供されたりしていた。

ひとことで「雷獣」と言ってしまっているが、
実はこれは、「雷」と一緒に
空から落ちてきた「化け物」の総称である。
その形については、一般的に良く知られているタヌキや猫、
イタチなどに似ているものから、クモやカニのようなものもある。
(クモやカニを「獣」といっていいのかどうかは、謎だが……)
その中でも、ヘビやトカゲなどのは虫類に似た特徴を持つものは、
特に「雷龍」と呼ばれていた。

この「雷龍」については、磔にされた状態でミイラ化したものが
かなりの数、残されている。
言い伝えられている所によると、この「雷龍」は飛来した後
口から火炎を吐いて人を害したので、
時の刺使が、これらを捕らえて磔にしたという。
捕まった「雷龍」は21匹おり、これらはことごとく磔になった。
1匹1匹に名前が付けられており、それぞれ名前の中に
「アマノ〜」と「〜ミコト」とつけられている。
一種の神様扱いである。
その神様たちをことごとく磔にする、というのも大概だが、
現在とでは、「神様観」が違っていたのかも知れない。
ただ、磔になっている「雷龍」の「ミイラ」を見る限りでは、
どこにも神様的な要素は無く、
どこまでも中型のトカゲの開きである。
ぶっちゃけた話、日本はともかくとしても、
熱帯地方などにはごく普通に棲息していそうなトカゲだ。
ひょっとすると、交易によってもたらされた珍しいトカゲを、
どうにか金儲けに使おうとした、苦肉の策だったのかも知れない。

「雷獣」が現れた(落ちてきた)記録を調べてみると、
やはり数が多いのは、江戸時代の中期から後期にかけてである。
古いものでは、「平家物語」の中で源頼政に退治された
妖怪・鵺(ぬえ)が、実は「雷獣」だったのではないか?
といわれているが、サルの顔、タヌキの胴体、トラの手足、
ヘビの尾を持つといわれる鵺は、あまりにも異形のような気がする。
まるで「ウルトラマンタロウ」に登場した合体怪獣・タイラントだ。
(タイラントと違って、強そうな要素はあまり無いが……)
後の「雷獣」は、雷雨の日に空から落ちてきた生物、
という認識なのに対し、この鵺はどちらかといえば、
妖怪などに近い。
「平家物語」によれば、鵺は毎晩、
黒煙とともに不気味な鳴き声をあげた、とあるので、
これを雷雲と同一視したのかも知れない。

「雷獣」が落ちてきたという話については、
その大部分が東日本に集中しているのだが、
その中のわずかな例外の1つに、
播州赤穂の城下に落ちてきた話がある。
文化3年(1806年)、播州赤穂城下に落ちてきた「雷獣」は、
大きさが1尺3寸(約40cm)ほどで、指の間には水掻きがあった。
この「雷獣」の姿は絵に描き留められており、
それで見る限りでは、下半身は毛に覆われるようになっており、
後ろ足が確認できない。
ひょっとしたら、下半身の無い死骸だったのかも知れない。
顔は犬に似ていて、口の中には牙も確認できる。
目の周りの毛が黒くなっているので、パッと見た感じには
タヌキやアナグマの様でもある。
体のサイズ的にも、それらに一致している。

江戸時代中期から後期にかけて、
目撃談や捕獲談の多かった「雷獣」だが、
時代が移り、明治時代になると、
その目撃談もほとんど無くなってしまう。
この点、昭和の時代まで目撃例のあった「件」とは違っている。

明治時代に移り、日本国内のみならず
世界各国から「この手」の話が入ってくるようになると、
やはりより珍しい、海外の「化け物」へと
人々の関心は移っていき、国内の「化け物」たちは、
だんだんとその命脈を絶たれていくことになった。
昭和の時代になれば、人々の関心は、海外に生息している
「化け物」と「生物」の中間に位置している「未確認生物」へと、
移っていった。
そう。
ネッシー」や「イエティ」、「ビッグフット」などのUMAである。
これらの未確認生物は、一大UMAブームを巻き起こした後、
やがてそれぞれが、科学の力によって、
その存在を否定されていくことになった。

まだまだ科学が未発達だった時代、
そんな時代の中では、「神」や「仏」はもちろん、
「鬼」や「天狗」、「河童」や「雷獣」などについても、
誰もその存在を疑う者はいなかった。
これらは全く普通に、人間が生活している世界に存在して、
人々の生活にも大きな影響を与えていたのだ。
だが、時代とともにこれらの「嘘」は暴かれていき、
現在では「神」や「仏」は、宗教の象徴的な存在として、
「鬼」や「天狗」は、昔話の中に生きているのみである。

これがいいことであるか、悪いことであるかは判断が難しいが、
「つまらない」ことであることだけは、確かなことである。

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