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内臓料理はなぜホルモンなのか。

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「ホルモン」という言葉には、2つの意味がある。

ひとつは内分泌腺から分泌され、血液とともに体内を巡り、
身体の各部分の働きを盛んにする物質だ。
甲状腺ホルモン、副腎皮質ホルモン、男性ホルモン、女性ホルモン。
具体的にどんなものかはわからなくても、
TVの健康番組などで、これらの言葉を聞いたことはあるだろう。

もうひとつは、鳥獣肉の内臓、いわゆるモツのことである。
ホルモン焼きなどに代表される、内臓料理に使われている部位のことを、
「ホルモン」と呼ぶことがある。
今回取り上げるのは、こちらの「ホルモン」だ。

「ホルモン」と聞いて、思い浮かぶのが
マンガ「じゃリン子チエ」だ。
このマンガの主人公・竹本チエの実家の家業が、
「ホルモン焼き屋」である。
マンガを見る限りでは、串にささったホルモンをガスコンロで焼いている。
味付けにはタレと塩があることが、作中にて明かされている。
この串焼き形態のホルモン焼きで酒を飲むという、
居酒屋に近いスタイルである。
マンガでは、ライスを注文している場面や、
他の商品を注文している場面が無いので、
あくまでも、ホルモン焼きと飲み物だけで勝負しているらしい。
客層については、日雇い労働者などの低所得者層が目立つ。
一日の肉体労働の後に、ホルモン焼きを肴に酒を飲む。
そういうスタンスの客が多い。

また作中で風邪をひいたキャラクターたちが、
「体力・スタミナをつけるため」という理由で、
ホルモン焼きを食べにくる。
さらに、ここ一番、パワーとスタミナが必要だ、というシーンでも、
キャラクターたちはホルモン焼きを食べる。
一種の体力増強食、スタミナ食として、
「ホルモン焼き」がとらえられているのだ。

この描写から、ホルモンは安価で、体力がつく、
ということを読み取ることが出来る。

事実、内臓類にはビタミンAやビタミンB、
鉄分や亜鉛、コラーゲンなどが豊富に含まれている。
さらに栄養豊富でありながら、カロリーは正肉よりも低い。
ビタミンBには、疲労回復の効果があり、
鉄分は、血液中で酸素の運搬に関わり、不足すると貧血になる。
亜鉛は、体内の酵素の活性に関わっていて、
不足すると、味覚異常、精力減衰、貧血、
免疫機能の低下などが起こる。
コラーゲンは、その美容効果がよく言われているが、
経口摂取によるコラーゲンが、どれほどの効果をもたらすのかは、
はっきりとしていない。
ただ、コラーゲンをたっぷりとった翌日は、
肌がプリプリになる、などという話も聞く。
実際に効果があるのか?
それとも、ただのプラシーボ効果なのか?
その研究結果が待たれる所だ。

一般的に、日本人がホルモン、つまり鳥獣肉の内臓類を食べ始めたのは、
第2次世界大戦以降のことであると、思われている
しかし、肉食が禁止されていた明治時代以前にも、
肉食が行なわれていた事実があったように、
内臓食も行なわれていたのではないか?
鳥や獣の肉を食べていたのなら、
当然、それらの内臓もあったはずである。
古代日本人は、これを食べずに捨てていたのだろうか?

調べてみると、7世紀に編まれた「万葉集」の中に、
シカの内臓を食べた話が載っている。
肝臓を膾(なます)に、胃を塩辛にしたと書かれている。
つまりどちらも生食していたわけだ。
正肉に比べて傷みやすい内臓を生食するには、
屠殺した後、すぐに食べなければいけない。
9世紀に書かれた「新撰字鏡」や、
13世紀に書かれた「宇治拾遺物語」にも、
「肝膾(きもなます)」という言葉が出てくる。
少なくとも7世紀から600年ほどの間は、
肝を膾にして食べる風習があった可能性がある。
文字記録に残っているということは、
身分の低い者が食べていたわけではなく、
身分の高い者が、これを食べていたということだ。

時代は下がり、江戸時代。
慶安元年(1648年)、小諸城主・青山宗俊に対し、
鶏臓物(ももげ)料理を献上したという記録が残っている。
7世紀から1000年の間、
内臓食は続けられてきたということになる。
獣肉が、こっそりと食べられ続けていたのと同じように、
内臓も、こっそりと食べられ続けていたのだろう。

明治維新に至り、肉食が解禁される。
これは同時に、内臓食の解禁も意味している。
ただ、維新前の記録でも「肉食」に比べると、
「内臓食」の記録が少なかったのと同じように、
やはり維新後も、「内臓食」の記録は少ない。
恐らく、内臓を食べるということに、
正肉を食べる以上の抵抗があったのではないだろうか?
明治維新以降、肉食についての記録はグンと増えるが、
内臓食についての記録は、ほとんど残っていない。
明治39年の神戸新聞には、屠畜場の近くで、
大鍋で臓物を煮込んだものが人気であった、という記事がある。
現在のもつ煮込みの、原型だろう。
記事によれば、価格は1皿1銭。
現在の貨幣価格になおしてみれば、1銭は大体70円ぐらいである。
極めて安価な食べ物だったようだ。
しかしこのころの内臓料理は、極めて限定的な範囲でのみ食べられており、
一般的なものではなかった。

大正時代に、精力をつける料理という意味での、
「ホルモン料理」の店が出来た。
「ホルモンの内分泌を促進する料理」という意味である。
従って、このころの「ホルモン料理」には内臓料理だけでなく、
卵、納豆、山芋なども含まれていた。
この話を信じるのであれば、
有名な「ホルモン」=「放るもん」という、
名前の由来は間違っていることになる。
この名称の由来については、いまだはっきりしていないこともあり、
きっちりとした結論は出ていない。
後に、内臓料理のみを「ホルモン料理」と呼ぶようになっていく。

この内臓料理「ホルモン」が一般に広がりはじめるのは、
戦中・戦後の物資不足のころのことである。
つまり、餓えに耐えかね、肉だけでなく、
臓物にも手を出したというワケである。
実際の所、肉6に対して1の割合で、内臓が出る。
これを捨てるだけの余裕が、当時の日本には無かったということだろう。
当時、朝鮮半島より連れて来られた労働者たちが、
内臓を食べる風習を持っていた。
これに習うようにして、「ホルモン」を食べる習慣が浸透していった。

現在では、肉屋のみならず、スーパーの精肉売り場でも、
「ホルモン」は販売されている。
肉屋などで売られている場合、「ホルモン」というのは、
主に小腸のことを指している。
もともとは「放るもん」、などという説が出るほどに
安価であった「ホルモン」も、最近では結構な値段である。
国産和牛には劣るが、輸入牛肉などの場合、
ほぼ正肉と同じか、それ以上の値段がついていることがある。
日本でも、内臓食が受け入れられたという、何よりの証拠だろう。

このスーパーなどで販売されている「ホルモン」。
網で焼いたり、鍋で煮る場合は気にならないが、
フライパンで炒めたり、焼いたりする場合、
ホルモンの中から大量の水分が出る。
これは、小腸を下処理の段階で水洗いしているためで、
このときの水を含んでいるのである。
もちろん、内臓独特の臭気が移っているので、
この水はペーパータオルに吸い込ませるなどして、
きっちりと捨ててしまおう。

近年では、ホルモンを使った町おこしB級グルメも、
盛んに取り上げられている。
次回は、そんなホルモンB級グルメのひとつについて、取り上げる。

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