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とろろ昆布

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一人暮らしをしている者にとって、みそ汁というのは、
結構、扱いの難しいものである。

みそ汁なんて、1回の食事でおかわりをするようなものでもないので、
鍋でみそ汁を作っても、1回の食事で食べきれることがない。
さらにパンや麺類を食べる場合、
それにみそ汁をつけあわせることはない。
(少なくとも自分は)
仮に、米飯を食べる場合にしても、
メニューがカレーライスなどであった場合は、
やはり、これにみそ汁を付けあわせることはない。
そうなると、張り切ってみそ汁を作ってみても、
これを食べる機会というのは意外に少なく、
わりと長時間、鍋の中に残り続けることになる。

だが、これが冬であればいい。
冬のキッチンは、大体が良く冷えきっているので、
そこにおいておく限り、2〜3日くらいは
充分に保たせることが出来る。
だが、これが気温の上がる夏ということになると、もういけない。
1〜2日程度、置いておいても傷んでしまうことがある。
冷蔵庫の中にでも入れておかなければ、
下手をすれば、1日も持たずに鍋が異臭を放つこともある。
そうなってくると、もうダメである。
とてもみそ汁など、作れるものではない。
冷蔵庫の中に入れておけば、それなりに保たせることが出来るが、
冷蔵庫の中に入れるには、少なくとも常温近くまで
鍋を冷ましてから入れないといけないし、
小さいとはいえ、鍋を1つ冷蔵庫の中に入れるとなると、
それなりのスペースを空けておかなければならない。
1回1回、鍋が冷めるのを待つなどと言うのは手間だし、
常時、冷蔵庫の中に、鍋1つ分のスペースをとっておくのも、
やはり不便なものである。

そうなってくると、もう、夏になればみそ汁は諦めるか、
あるいは、お手軽なインスタントのみそ汁に切り替えるか、
ということになる。
大方のインスタントみそ汁というのは、
お椀の中に乾燥させた具材と、ダシ入りの味噌を入れて
お湯を注ぐようになっている。
ダシ入りの味噌をお湯で溶くというのはまだ良いとしても、
乾燥させた具材をお湯で戻すというのは、まるでダメである。
豆腐であろうが、ネギであろうが、油揚げであろうが、
一度乾燥させてしまうと、極端なほどに品質は劣化し、
普通に作ったみそ汁よりも、遥かに劣った出来上がりになる。
(そんな、乾燥による劣化の激しい具材たちの中で、
 唯一、品質の変わらない具材がワカメである。
 品質の変わらない理由はシンプルだ。
 もともとワカメは、通常の場合であっても乾燥させた状態で
 販売されているからである)

では、夏場になれば、全く汁物を用意しなくなるのか?といえば、
決してそういうわけではない。
もちろん、品質が悪いのをガマンして、
インスタントみそ汁を用いることもあるのだが、
大方の場合、自分はもっと手軽に汁物を用意する。
それが、「とろろ昆布」の吸い物である。

「とろろ昆布」の吸い物の作り方は、至って簡単だ。
まず、汁碗にひと掴みほどの「とろろ昆布」を入れて、
その上に小さじ半分ほどの顆粒ダシを入れる。
そこに沸かしておいた熱湯を注ぎ、軽くうすくち醤油をかけ回す。
これで出来上がりである。
味噌や具材の小袋を破かなければならない
インスタントみそ汁と比べても、ほとんど手間がかからない。
味の方も、具材として入れた「とろろ昆布」からも旨味が出るので、
驚くほどちゃんとしている。
下手をすれば、顆粒ダシをわざわざ入れなくてもいいのではないかと、
思ってしまうほどである。
ダシをとるのに使われる昆布を、
そのまま具材にしてしまったのだから、
旨味が足りないわけがない。
かくして我が家では、気温の上がってくる季節になると、
鍋で作っていたみそ汁が、
お椀で作る「とろろ昆布」の吸い物にチェンジするのである。
(もっとも、「とろろ昆布」自体は、普通のみそ汁にも
 載せて食べるので、一年中、我が家に常備してあるのだが……)

「とろろ昆布」とは、昆布を削って作った加工品である。
同じように昆布を削った加工品に「おぼろ昆布」があるが、
「とろろ昆布」と「おぼろ昆布」では、その削り方が違っている。
昆布を、面に平行に削っていくのが「おぼろ昆布」、
面に垂直に削っていくのが「とろろ昆布」ということになる。
……。
いや、面に平行に削っていくというのは分かるけど、
面に垂直に削っていくって、どういうことなの?と、
思う人もいるだろう。
もちろん、これは昆布1枚単位での話ではない。
うすい昆布を何枚も積み重ね、ある程度の厚さを確保した所で、
サイドから削っていくということである。
うすい肉を円筒状に積み重ねていき、
これを回転させながら焼いた後、
これを外周から削り取って食べるトルコ料理・ドネルケバブと
同じようなものだと思ってもらえば良い。
(かえって分かりにくいかも知れないが……)
その製造工程上、「おぼろ昆布」が薄い板状になるのに対し、
「とろろ昆布」は、細い糸状になっているのが特徴で、
「おぼろ昆布」が、職人によって手作りされているのに対し、
「とろろ昆布」は、機械によって生産することが出来るため、
価格的には「とろろ昆布」の方が、安価なものになっている。
(さらに製造工程上の違いとして、
 「おぼろ昆布」が、昆布を蒸して柔らかくしているのに対し、
 「とろろ昆布」は、昆布を酢に付けて柔らかくしている)

この昆布を削ることによって、
糸状(あるいは板状)に加工する技術は、
一体いつ?どのような課程で作り出されたのか?

日本での昆布の歴史は古い。
昆布が、日本の文献上に初めて登場するのは、
797年に編纂された「続日本紀」でのことである。
すでにこれより以前にも、
朝廷に昆布が献上されていたとあるので、
日本での昆布食の歴史は、おおよそ1300年以上の
歴史があることになる。
だが、「朝廷に献上されていた」という記述の通り、
当初、昆布というのは、身分の高い人間のみが食べることの出来る
一種の高級食材であった。
昆布が庶民の口に入るようになるのは、グッと時代が下って
江戸時代も中期ごろの話である。
このころにはすでに、昆布を削り、
「とろろ昆布」や「おぼろ昆布」に加工して食べる方法が
行なわれていたようだ。

現在でもそうだが、昆布の主生産地は蝦夷地(北海道)である。
蝦夷地でとれた昆布は乾燥され、船によって日本海を運ばれ、
敦賀へ水揚げされ、そこから陸路を通って、
京都・大阪へと運ばれていた。
後に西回り航路が開発され、下関から瀬戸内海を通って、
船で大阪まで運ばれるようになり、
その後、大阪から改めて船によって、江戸へと運ばれた。
この蝦夷地から大阪まで、昆布を運んだルートは、
「昆布之道(コンブ・ロード)」と呼ばれていたのだが、
なんといっても長距離の移動になるため、
運搬の最中に、昆布にカビが生えてしまうようなことも多かった。
このカビを取り除くため、昆布の表面を包丁で薄く削ったのが、
「おぼろ昆布」誕生のきっかけとなった。
固い昆布を薄く削ることによって、
水で戻さなくても食べやすくなる。
だが、1枚1枚、包丁で昆布を削っていたのでは効率が悪い。
なんとかまとめて昆布を削れないか?と考えた後、
束ねた昆布を側面から削っていく方法を考えついた。
「おぼろ昆布」と違い、細い糸状になるため、
使い道はかなり限定されてしまうことになるが、
なんといっても削りやすい上に、効率もいい。
さらにその削り方から、昆布の外側も中心部も、
まとめて削ってしまうので、深い味わいがある。
こうして「とろろ昆布」は、昆布の食べやすい1つの形状として、
定着することになったのである。

一般的に、昆布を食べるということになると、
やれ佃煮だ、やれ昆布巻きだと、いちいち昆布を水で戻し、
手間のかかる料理が紹介されることが多いが、
「とろろ昆布」というのは、そんな面倒なことをしなくても、
極めて手軽に昆布を食べることの出来る、
非常に優れた昆布加工品である。
醤油などの濃い味で煮込む「佃煮」などの調理法と違い、
塩分摂取量も自由に調整できる。

かつて、マンガ「美味しんぼ」の中で、
沖縄の人間が、「本土の人間は昆布でダシをとるだけだが、
沖縄の人間は昆布そのものを食べる」と評していたが、
なんのことはない、本土の人間も「とろろ昆布」という
非常に扱いやすい昆布加工品を作り、これを食べていたのである。

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