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夜光虫

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5月の上旬、ネットのニュースサイトに、こんな記事が載った。

「幻想的に青く光る鎌倉の海岸、原因は夜光虫」

今月6日、神奈川県鎌倉市の海岸沿いが、青い光に染まった。
記事には写真も貼付されており、その写真を見ると
ちょうど砂浜の波打ち際の部分が、きれいな青い光を発している。
それも写真で見る限りでは、かなりの広範囲にわたって
海面が青く光っており、ちょっと見た感じでは
水中に何か青い光源が沈んでいるようにも見える。
確かに幻想的としか言い様のない光景であった。

かつて自分も、夜光虫によって光る海を見たことがある。
ちょうど夜釣りに出かけていっていたときのことで、
真っ暗な海に仕掛けを投入すると、淡い青い光の波紋が現れた。
さらに波が強く岸壁に打ちつけられると、
そこがまた、わずかに青い光を放ち、そして再び真っ暗になる。
今回のネットニュースで見た写真とは違い、
光自体、本当に微かなものであったが、
生まれて初めて夜光虫を目にした驚きと感動は、
大きなものであった。

ただ、自分が実際に夜光虫を見たのは、
そのときを含めて、わずか数回だけである。
釣りが好きで、よく夜釣りに出かけていたことを考えると、
その遭遇率はかなり低かったといえる。
その数回の遭遇で目にした夜光虫の光は、
どれも、今回、ネットニュースで紹介された
鎌倉の「それ」とは比べ物にならないほど弱く、
それしか目にしたことのなかった自分は、自然、
夜光虫とはその程度の微かな光しか、発しないものと思っていた。
そういう意味で、今回のニュースで紹介された鎌倉の夜光虫は、
自分の夜光虫に関する認識を、ひっくり返すものであった。

「夜光虫」とは、海洋性のプランクトンの一種である。
名前に「虫」と入っているものの、昆虫ではなく、
水面を漂って生活する単細胞生物である。
サイズも小さく、体長は1㎜以下で、
たまに大量発生することがある。
これが大量発生していればしているほど、
海面は強い光を放つようになる。
先の例でいえば、自分が夜釣りをしていた播磨灘の岸壁より、
鎌倉の海岸の方が、夜光虫が大量発生していた、ということである。
幻想的な青い光を放つことから、
非常にきれいなイメージを持ってしまう夜光虫だが、
この夜光虫が大量に漂っている海を、明るい昼間に見てみると、
海面は赤茶けた色に染まっている。
そう、「赤潮」である。

「赤潮」は見た目に汚く、海の汚染の代名詞のようなものなのだが、
その「赤潮」もまた、海洋性のプランクトンの大量発生によって
引き起こされる。
この「赤潮」を生み出すプランクトンの中の1種が、
夜光虫なのである。
かつて「赤潮」について書いた際、「赤潮」の発生の主な原因は、
水の富栄養化である、と書いた。
水中に含まれる栄養が多くなると、
それをエサにしているプランクトンが大量発生することになる。
この大量発生したプランクトンたちが水面を覆いつくし、
水面の色を赤く(あるいは別の色にも)染めることになる。
この大量のプランクトンたちによって水中の酸素が消費され、
赤潮の発生している箇所は、一種の酸欠状態になる。
そんな場所では魚は生きていくことが出来ないから、
当然、別の酸素の豊富な場所に移動してしまうが、
生け簀で養殖されている魚などの場合、
酸欠海域から移動することが出来ないため、
あっさりと全滅してしまうことになる。

と、ここまで聞くと、
え?夜光虫の出る海って汚染がヒドいの?と、思ってしまうが、
先に書いた通り、夜光虫はあくまでも「赤潮」を生み出す
プランクトンの1種に過ぎず、他に比べれば
汚染の少ない海域でも発生する種らしい。
ただ、夜光虫自体、汚染の少ない海域ではほとんど発生しないので、
ある程度、夜光虫の発生と海域の汚れには、
相関関係があるようだ。
実際、夜光虫の発生している海域では、
魚が釣れにくいという話もある。
その原因として考えられているのが、

・夜光虫は肉食なので、
 釣りのエサを、魚が食べるより前に食べてしまう
・エサやルアーを投げ入れても、その衝撃で海面が光るため、
 魚たちに気付かれてしまう
・夜光虫が発生している海域は酸欠状態になっていることが多く、
 魚がいなくなっているか、いてもエサに反応を示さない

などである。
また、仮に魚が釣れたとしても、魚に夜光虫が付着し、
エラや内蔵を食べてしまう。
もちろん、火を通せば夜光虫も死ぬので、
魚を食べても害はないのだが、
生で食べるのは控えた方が良いかも知れない。

最初に紹介したニュースの通り、
夜光虫は春から秋にかけて、海水温が上昇すると大発生する。
夜光虫の目撃例が多いのも、5月から9月にかけての期間中で、
この時期に磯の香りが強まってくると、
赤潮をとともに夜光虫が発生することになる。
夜光虫は北海道から沖縄に至るまで、
日本中で見ることが出来る。
(当然、きれいな海域よりは汚れた海域の方が、
 見れる確率は高いだろうが……)
場所によっては、夜光虫ツアーが行われていて、
これはナイトシュノーケルをしながら、
夜光虫の光を楽しもうというものだ。
今回のニュースのように、
関東周辺では5月ごろに大量発生することがあり、
これを目的とした見物客もやってくるようだ。

だが、夜光虫の発生しやすい時期はわかっても、
いざ、これを確実に見に行くということになると、
これは結構、「運」の要素が強くなってしまう。
夜光虫が見れるかも?と夜の海へいってみた所で、
目の前に広がるのは、ただ真っ暗な海ばかりということも
大いにあり得ることである。
夜光虫が発生している、という情報が流れている場合、
それを参考にするのがもっとも手っ取り早いのだが、
夜光虫の発生状況というのは、
一体、どこで聞けるのかもわからない。
ただ、ある程度、夜光虫の発生を予想する方法はある。
夜光虫を探すのではなく、「赤潮」を探すのだ。
「赤潮」に関しては、その発生情報を
県の水産技術センターなどが発信している。
それを参考にすれば、現在、どのあたりで
「赤潮」が発生しているかわかるので、
それを元に夜光虫を探してみれば、夜光虫に出会える確率は
グンと上がることになるだろう。
時間があれば、明るい昼間のうちに海に出かけ、
「赤潮」の発生している場所を確認しておけばいい。
そうすることによって、さらに夜光虫に遭遇する確率が
高くなる。

ただ、夜光虫が「赤潮」であることは間違いがないが、
だからといって「赤潮」の全てが光るわけではない。
プランクトン群の中に夜光虫がいなければ、
その「赤潮」が光ることはない。
夜光虫を探すにあたっては、その点だけは覚えておいてほしい。

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