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特定外来生物、沼狸、海狸鼠、洋溝鼠、舶来溝鼠、ヌートリア

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自転車を走らせていたら、道沿いの池に「毛皮」が浮いていた。

一瞬、何が浮かんでいるのかよくわからず、ギョッとなったが、
よく見てみると、どうも小型の生物が、池の中に浮かんでいるようだ。
濃いブラウンの毛皮が水に濡れ、べったりとしている。
ちょっと興味があったので、自転車を止めて池を覗き込んでみた。
田舎の灌漑用のため池で、かなり小さい。
他の池と違っているのは、どういうわけか水が白く濁っている所だ。
まわりは山に囲まれている池なので、工業廃水が流れ込んだり、
農薬が流れ込んだり、ということではないはずだ。
その白い水面に、濃いブラウンの毛皮が浮かんでいるのだから、目立つ。

浅い池で、水深は1mもないだろう。
道から水面まで50~60cmほどしかない。
そんな池の縁に、顔を寄せるようにして浮かんでいる。
最初は死体でも浮かんでいるのかと思ったのだが、
足元を覗き込んでみると、向こうもこちらを見ていた。
目が合ってしまった。

「……」
「……」

お互いに無言である。
こちらは何も声を出さないし、相手も鳴き声をあげない。
鳴くのかどうかも、わからないが。
上から俯瞰で見ているせいか、そいつの顔は面長で、鼻先が水面の上に出ていた。
呼吸をするためだろうが、鼻の穴が丸見えなために、ひどい顔に見える。
まるでブタかイノシシだ。
サイズは猫とタヌキの中間ぐらいで、毛並みは固そうだ。
ひょっとしてウリボウ(イノシシの子供)か?とも思ったが、
尻から長い尻尾が伸びている。
20秒ほど無言の対峙が続いたが、やがて相手がゆっくりと泳ぎだし、
池の側面に生えていた、草むらの下に潜り込んでしまった。
ひょっとしたら、あの下に巣があるのかもしれない。

ニュースなどで、増える特定外来生物について、特集が組まれることがある。
カミツキガメ、セアカゴケグモ、アリゲーターガー、ブラックバス。
様々な外来生物が、日本の生態系を壊す、いわば『敵』として紹介される。
どれも人間の都合で連れて来られた生物なので、
一方的な『敵』扱いは気の毒だが、
この手の特集では、散々『敵』扱いをした後、
最後に付け合わせのように、「人間の責任が~」で締める。
こういう番組を見せられると、彼らは『敵』として認識されてしまう。
さすがにこれは気の毒である。

今回、自分が見かけたミョーな毛皮だが、後で調べた結果、
どうも「ヌートリア」らしい。
写真で確認した結果、身体的な特徴も一致している。
今までにも、川などで見かけたことはあったが、
至近距離で、まじまじと見つめあったのは、今回が初めてだ。
このヌートリアもまた、特定外来生物である。

ヌートリアは、ネズミ目ヌートリア科のほ乳類である。
日本では「沼狸(ぬまたぬき)」、「海狸鼠(かいりねずみ)」、
「洋溝鼠(ようどぶねずみ)」、「舶来溝鼠(はくらいどぶねずみ)」
などと呼ばれていた。
……。
少なくとも、あまり良い和名は、つけられていないようだ。
和名の中に「洋」、「舶来」という言葉がある所からも、
これが外国から移入されたものであることがわかる。
原産地は南アメリカで、毛皮をとるために世界中に広がった。
現在では、南アメリカの他に、北アメリカ、ヨーロッパ、
アジア各地に分布している。
これが日本に移入されたのは、1939年のことだ。
毛皮用に、ということでフランスから150頭、移入した。
当時、ヌートリアは「沼狸(しょうり)」と呼ばれており、
これを「勝利」にかけ、縁起がいい、というのも移入された理由である。
バカみたいな理由だが、70年ほど前にはその「バカ」な理由が、
軍隊の中でも通用していたというのが、恐ろしい。
この後、ヌートリアの移入はさかんになり、
この5年後の1944年には、全国で4万頭ものヌートリアが飼育されていた。
しかし終戦を迎え、軍による毛皮の需要が無くなる。
このときにかなりの数のヌートリアが、野に放たれた。
1950年代には、毛皮ブームが起こり、需要も持ち直したが、
すぐに毛皮価格が暴落。
このときも、かなりの数のヌートリアが野に放たれた。

以降、50年。
ヌートリアは稲や麦、野菜類に食害を及ぼす害獣として、
はびこり続けてきた。
虫などの生態系への影響も大きく、
水田の畦や、川の土手などに深い巣穴を掘るために、
これらの決壊の原因となることもある。
2005年に「特定外来生物」に認定され、駆除の対象となっている。

ちなみにヌートリアは、食用にされることもある。
1953年に記された「日本獣類図説」には、
肉が淡白で兔肉に類似し、悪臭も無く食用になる、とある。
また食味については、イノシシの肉に似ている、という意見もある。
ネットで食べた人の話をいくつか調べてみた所、
全ての人が美味しい、一般受けする味だ、と評していた。
ただ、生肉の状態では、匂いがしないとする意見と、
強い匂いがあるという意見、両方が存在した。
販売しているサイトはないかと調べてみたが、
さすがにヌートリア肉の販売を行なっているサイトは無かった。
どうしても食べたい場合は、自分で捕まえてくるか、
猟師に頼んで、獲ってきてもらうしかないようだ。
そういう意味では、非常にレアな肉であるといえる。
ただ、一般人のイメージとして、
ヌートリア=ネズミという認識があるらしく、
これに抵抗を感じる人は多そうだ。
実際に、ヌートリアはネズミの仲間なので、この認識は間違っていない。
イギリスでも、ヌートリアは駆除され絶滅したが、
これはヌートリアが美味しかったため、イギリス人たちが先を争って、
これを狩ったためだともいわれている。
しかし残念なことに日本では、そういう事態にはなりそうにない。
こう言っては悪いが、食べ物のまずい(と言われる)イギリスにおいて、
ヌートリアは凄くウマいものだったのかもしれない。

自分の地元・兵庫県では、ヌートリアは2007年、2008年と、
1億円を超える農業被害を出し、全国ワースト1となっている。
それだけ、県下にはヌートリアがいる、ということだろう。

ともすれば、知り合いの猟師などは、
今年はこれを獲って食べたい、などと言い出すかもしれない。
そういうことになれば、少し分けてもらって試してみるのも面白い。

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