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ヒョウタン

投稿日:

By: Ik T

昔、良く読んでいた手塚治虫のマンガの中に、
「ヒョウタンツギ」というキャラクターが登場した。

今、これを読んでいる人の中には、
頭の中に手塚マンガのキャラクターたちを思い浮かべ、
「ヒョウタンツギ」なんていうキャラクター、いたかな?と、
首をひねっている人もいるだろう。
だが、「ヒョウタンツギ」という名前に
心当たりのない人であっても、
手塚治虫のマンガを読んだことのある人なら、
恐らく100人中100人が
「ヒョウタンツギ」を目にしているはずである。

「ヒョウタンツギ」というのは、
マンガの中でストーリー展開に直接関わってくるような、
いわば、メインのキャラクターではなく、
コマの隅っこの、全くストーリーに関係ないような場所に描かれる
手塚の落書きのようなキャラクターなのである。
もちろん、ストーリーの本筋に関わってくるようなことは
ほとんど無く、たまに2〜3コマ使って
ショートコントのようなものが展開されることもあったが、
ストーリーの本筋を楽しんでいく上では、
さっくりと読み飛ばしてしまっても、全く問題のないものであった。

具体的にどんな形状のキャラクターか?といえば、
ヒョウタンをひっくり返したような顔に、ブタのような鼻と、
下弦の月のような目がついており、
顔の下には一応、体らしいものがある。
顔と体にはツギハギ模様があり、
体の下部もまた地面に縫い付けられている。
もちろん、地面に縫い付けられているわけだから
移動するということは全く出来ないのだが、
設定では、この「ヒョウタンツギ」は
キノコの一種ということになっているため、
特に移動しなくても、問題は無いようである。
ヒョウタンの飲み口にあたる部分がクチのようになっていて、
殴られたり押しつぶされたりすると、そこの部分からガスを噴射する。
さらにはローマ字を使って喋ることもあるのだが、
言っていることは、作者である手塚治虫の
愚痴のようなものであることが多い。
もともとは手塚治虫の妹の描いた落書きで、
それを手塚が自分のマンガのキャラクターに作り直したもののようだ。
まあ、いわば、手塚マンガの片隅に登場する
マスコットキャラクターのようなものだと思ってもらえればいい。

さて、話はちょっと変わるが、その昔、
我が家には1個だけヒョウタンがあった。
恐らくは、両親がどこかの観光地で、
お土産に買ってきたものだと思うのだが、
表面には焦げ茶色の塗料が塗ってあり、赤い飾りヒモがついていた。
結構、大きなヒョウタンで、
大人の頭と同じくらいの大きさがあった。
そのヒョウタンを見ていると、
ムラムラと「ヒョウタンツギ」にして見たくなった。
マジックで顔を書き込めばいいのだが、
さすがにそれはちょっと気が引ける。
その代わり、ということでボール紙を切って、
「ヒョウタンツギ」の目と鼻を作り、
これをヒョウタンに貼付けてみた。
……。
結果としては、大失敗であった。
出来上がったものは、およそ「ヒョウタンツギ」とは表現し難い、
不気味なシロモノであった。

「ヒョウタン」は、ウリ科ユウガオ属に属する、
ツル性の1年草である。
最古の栽培植物のひとつとされており、日本でもイネや麦、
豆などよりも遥かに古い、9600年前の出土がある。
そんな古い時代から日本にあったということは、
これは日本古来の在来種なんだな、と思ってしまうが、
実はヒョウタンの原産地はアフリカである。
これは近縁の野生種が、アフリカにだけ分布していることから
間違いない事実だと考えられているのだが、
もし、これが本当だとすればヒョウタンは、
9600年以上前にアフリカから渡ってきたということになる。
驚くべきはそれだけではなく、なんとアメリカ大陸でも
1万年以上前の遺跡から出土している。
そうなると、有史以前にはすでに、
ヒョウタンは世界中に広まっていたということになる。
アメリカで発見されたヒョウタンのDNAは、
アフリカ産よりもアジア系である、という研究結果もあり、
これは、コロンブス以前にアメリカ大陸に住んでいた原住民たちは、
大西洋を渡ってアメリカ大陸にやってきたのではなく、
アジアを経由し、ベーリング海を渡ってやってきたことを
表している。

一説によると、人類の発祥の地はアフリカであり、
そこから世界中に広まっていったとされているが、
ひょっとすると、そのときにヒョウタンもまた、
世界中に広がっていった、とは考えられないだろうか?
広く知られているように、ヒョウタンはその中身をくりぬいたものを、
水などを入れる容器として用いられてきた歴史があり、
恐らくこれは、人が旅をする上で決して欠かすことの出来ない
アイテムだったはずである。
かなり大げさな考え方をすれば、
ヒョウタンという「水」を持ち運ぶのに適した容器があったればこそ、
人類はアフリカを飛び出し、
世界中へ広がっていくことが出来たとも言える。
だとすれば、実はヒョウタンこそが
人間の歴史の根幹を支えていたということになる。
……。
まあ、さすがにそこまでのことはないかも知れないが、
ヒョウタンが史上最初の容器の1つであったというのは、
間違いがない。

先にも書いたように、日本では9600年前の
縄文時代の遺跡からヒョウタンの種子が出土しているのだが、
文献上にヒョウタンのことが出てくるのは、
奈良時代に編纂された「日本書紀」の中に出てくるものが最初である。
それによると、400年ほど前の仁徳天皇の時代に、
水神への人身御供にされそうになった男が、
ヒョウタンを使って難を逃れた、とある。
恐らくは、そのころにはすでに
ヒョウタンというのは身近なものであったということだろう。
「日本書紀」の表記では「瓢箪」ではなく「瓢」となっていて、
これは「ひさご」と呼ぶ。
この植物の果実を加工して作る「ヒョウタン」は、
「瓢(ひさご)」の「箪(容器)」という意味である。
ヒョウタンといえば、上下が丸く、真ん中部分のくびれた
いわゆる「ヒョウタン」型のものを思い浮かべるが、
もともとのヒョウタンは、現在のような形状をしておらず、
球状、楕円状、棒状などの型状であった。
現在のような「ヒョウタン」型は、後に突然変異によって生まれ、
それが世界中に広まっていったものだとされている。

さて、ここまで書いたように、内部の果肉を取り除き、
乾燥させたものが「容器」として用いられるヒョウタンだが、
通常、これが食用に用いられることはない。
果肉には「ククルビタシン」と呼ばれる強毒性の成分をもっており、
これを食べた場合、胃腸不全を起こし、吐き気、嘔吐、腹痛、
下痢などに苦しむことになる。
重篤な症状に陥った場合、ごく稀にではあるが、
死亡に至るケースもある。
日本国内でも2013年、大阪の市立小学校の理科教師が
希望者を募って、皆で育てたヒョウタンを食べさせた事件があった。
午前中に2名の生徒が嘔吐し、これを知った校長が
「ヒョウタンのせいかも知れないから……」と摂食中止を指導したが、
どういうわけか理科教師はこの指導を無視して、
午後の授業でもヒョウタンを子供たちに食べさせた。
結果、28名の生徒が腹痛、嘔吐の中毒を起こし、
1名が脱水症状に陥るに至った。
もちろん、こんなマネをしてタダで済むわけがない。
理科教師には異例の懲戒免職という処分が下ることになった。
ヒョウタンの中には、有毒な「ククルビタシン」の
少ない品種を選別した、食用のものの存在しており、
「干瓢」の原料となるユウガオなども、そんな品種の1つである。
(ただ、苦みの強い個体にあたった場合、
 毒性が強い場合があるので、無理に食べない方がよい)

ヒョウタン自体、ちょっとすっとぼけたような
ひょうきんな形をしており、木もツル性で3〜5m伸びるので、
「緑のカーテン」として利用されることが多かったのだが、
最近では、その役目を「ゴーヤ」などの新興勢力に
奪われつつあるようだ。

やはり実が食べられるか、食べられないかということは、
栽培者には重要な問題であるらしい。

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