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動物 雑感、考察

パンダ

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世の中には、わずかな違いが、
結果において大きな違いとなることが、ままある。

今回のテーマである「パンダ」という生物も、
他の仲間たち(クマ)とのわずかな違いが、
彼らの運命を大きく歪めてしまったといっていい。
そのわずかな違いとは、
ほんのちょっと、他のクマたちと比べて、
体色の具合が違っていただけのことである。

……。
いや、そんなこと言うけど、
体色が白と黒のモノトーンのクマなんてパンダぐらいでしょう。
そりゃ、珍しいんだから、珍重されるのは当たり前じゃない、と
言う人もいるかもしれない。
だが、冷静に考えてみて欲しい。
我々のすぐ傍にも、白と黒のモノトーンのクマがいるではないか。
日本でもっとも数多いクマ・ツキノワグマも
白と黒のモノトーンのクマである。
もっともモノトーンといっても、ツキノワグマの場合、
そのほとんどは真っ黒で、胸の辺りにその名前の元となった
「月輪」型の白い部分があるだけだ。
だから、普通に四つ足で歩いている所を見ただけだと、
前身が真っ黒のクマに見えてしまうかもしれない。
だが、白と黒のモノトーンのクマが珍しい、ということになると、
このツキノワグマだって、人気者になっていないとおかしい。
しかし、実際の所、ツキノワグマの場合、
誰もがこれに出会わないように願い、
ひとたび人里に現れたなんていうことになると、
それこそ地元の猟友会が総動員されて、やれ射殺だ、いや保護だと、
なかなかやかましいことになる。

いや、だって、パンダはおとなしいじゃないか。
いつもおとなしく、のんびりとササを食べてるだけだし……、
という人もいるだろう。
そう、パンダの主食がササ、というのは、
まぎれもなく本当のことだ。
だとすれば、パンダは草食動物ということになり、
イコール「おとなしい」ということになるのではないか?
だが、実際の所、パンダはササを主食にはしているが、
当然、それ以外の食べ物も食べる。
果物も食べるし、魚や昆虫も食べる。
小型ほ乳類を食べることもある。
だから、正確に言えば、パンダはツキノワグマなどと同じく、
雑食性のクマ、ということになる。
そもそもツキノワグマだって、雑食性とはいえ、
肉食がメインの生物ではない。
よく、人里にクマが現れた際に、専門家が言うセリフで、
「森のドングリが不作だったため」というのがある通り、
ツキノワグマだって、ドングリを主食としているのである。
そういう意味では、パンダもツキノワグマも、
同じようなクマと表現しても問題ないだろう。
日本ではツキノワグマによる人的被害も、毎年の様に出ているが、
これらの被害は、人をエサと認識して襲ったのではなく、
突然の人間との遭遇にパニックに陥ったツキノワグマが、
半ば混乱の中で、人間に襲いかかっているだけなのである。
そして、パンダの本場中国では、これと同じように
パンダに襲われる人間というのが、ちゃんと存在しているのである。
これがほとんど表に出ないのは、パンダの数自体が少なく、
(現在、パンダの生息数は1500頭前後と考えられている)
人間との遭遇件数自体が低いため、
相対的に数が少なくなっているだけなのである。

我々が「パンダ」というと、全身が白黒モノトーンのクマを
思い浮かべてしまうが、実は「パンダ」という名前を持つ動物は、
もう1つ存在している。
それが「レッサーパンダ」だ。
こちらは全長50〜60㎝程の、太ったタヌキのような生物だ。
身体は茶色い毛で覆われており、手足は黒くなっている。
顔と耳には、白い部分があり、なかなか愛嬌のある顔をしている。
この「レッサーパンダ」も、我々の良く知る「パンダ」と同じく、
中国大陸に生息している。
実は、かつて「パンダ」といえば、
この「レッサーパンダ」のことだったのである。
後に現在のパンダ、つまり「ジャイアントパンダ」が確認された後、
「小さい方のパンダ」という意味を込めて、
「レッサーパンダ」と名付けられた。
小さな「レッサーパンダ」と、巨大な「ジャイアントパンダ」が、
どうして同じ「パンダ」という名前で
くくられるようになったのかといえば、
この両種には、人の親指と同じような役目を果たす
「手根骨」というものが存在しているからである。
このことから「レッサーパンダ」と「ジャイアントパンダ」は
近縁種と考えられ、両者ともに「パンダ」の名を持つこととなった。
(後の研究で、「レッサーパンダ」はレッサーパンダ科、
 「ジャイアントパンダ」はクマ科として区別され、
 別種として扱われている)

「レッサーパンダ」「ジャイアントパンダ」ともに、
学術的に発見されたのは、19世紀のことである。
先にも書いたように、まず「レッサーパンダ」が発見され、
それから30年程遅れて「ジャイアントパンダ」が発見された。
もちろん、これらの生息地付近の住民たちには、
それより遙か以前から、認知されていたものと考えられる。
ただ、正式に発見された後、「ジャイアントパンダ」には、
受難の時代が訪れる。
その白黒モノトーンの毛皮が珍重され、
狩猟ブームが巻き起こってしまったのだ。
これによって「ジャイアントパンダ」は大量に殺戮され、
20世紀に入るころにはすっかり数も減り、
絶滅の危機を迎えてしまう。
現在の動物園などでのパンダ人気から考えると、
とても信じられない事態である。
現在、パンダを殺して毛皮を剥ぐ、なんていうことをすれば、
世界中のパンダ愛好家から、激しい非難にさらされるだろう。

「ジャイアントパンダ」が、初めて日本にやってきたのは、
1970年代のことである。
日中国交正常化により、中国政府から上野動物園に
2頭のパンダが贈られた。
中国と各国との関係を円滑にするためにパンダを贈る、
いわゆる「パンダ外交」である。
これによって日本中にパンダブームが巻き起こった。
その人気は現在でも継続し続けており、
パンダの有無によって、動物園の来客数が大きく左右されている。
その強烈な集客力のため、
「客寄せパンダ」などという言葉も生まれているが、
あまり良い意味で使われることは無いようだ。
現在では、絶滅の恐れのある野生動植物の国際取引を保護する
ワシントン条約により、学術研究目的以外の取引は難しくなっている。
そのため、現在、日本の動物園にいるパンダたちは、
学術研究のために、中国からレンタルという形で
借り受けているということになっている。

ツキノワグマと同じように、東アジアに生息するクマでありながら、
少し体色のバランスが違っていただけで、
世界的な人気者になったパンダ。
ある時代では、絶滅寸前まで狩りつくされ、
ある時代では、首相や大統領にも劣らぬ、超VIP待遇で扱われる。
あまりにも劇的で、数奇な運命だ。
だがそれが、パンダにとって幸運だったかどうか?
ということになれば、やはりそこには疑問符をつけざるを得ない。

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