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「おせち」ならざるものを「おせち」にする〜その2

投稿日:

去年の大晦日。

今年のお正月は
「ちょっと変わったことをしよう」
というつもりで、例年は作らない「おせち」を作ることにして、
少々手抜きながら、自分流の「おせち」を作ったのだが、
出来上がった写真を友人に送ってみた所、
「これは「おせち」ではない」
という、身もフタもない答えが返ってきた。

陶製の3段重ねのお重に、それぞれ「煮染め」、「唐揚げ」、
「肉団子」を詰め込んだ「おせち」は、
全体が茶色いことを除けば、自分には充分に「おせち」であった。
だが、この茶色い「おせち」は、
友人の目には「おせち」とは映らなかったらしい。
この認識のズレを思い知らされた後、ふと、考え込んだ。
確かに自分が、お重に詰める品を考えているとき、

・冷蔵庫の中にでも入れておけば、3日ぐらい持ちそうなもの
・自分でも作れる程度に、簡単なもの
・大晦日の夕方から作り始めるので、調理に時間のかからないもの
・あまりカネをかけたくないので、とにかく安価なもの

ということだけを考えて、商品を物色していた。
特に「おせち」だから、こういうメニューを
というようなことはほとんど無く、
(唯一、「煮染め」だけは、
 かつての我が家の「おせち」に入っていたため、
 チョイスしたのであるが……)
本当にいい加減に、中に入れる品を選択した。
その結果が、冷凍食品の「唐揚げ」と「肉団子」だったわけだ。

そもそも「おせち」とは、どういうものなのか?
一体、何が入っていれば「おせち」なのか?
「おせち」の定義とは何か?
今回は、「おせち」の定義を見直し、
自分の作った「おせち」が、本当にそれから外れていたのか?
外れていたというのなら、それを「おせち」にするためには、
一体、何をどうすれば良いのか?というようなことを考えていく。

手持ちの古い百科事典で
「おせち料理」の項目を引いてみると、そこには

・正月料理のうち、煮染めのことを言ったが
 最近、デパートや食料品店で、各種の正月料理の既製品を
 この名で販売するようになり、
 それも含めて「おせち料理」というようになった

とある。
……。
この定義で言えば、「煮染め」の入っている自分の「おせち」は、
意味合い的には、まぎれもない「おせち料理」ということになる。
各種正月料理の既製品、ということであれば、
自分の採用した「唐揚げ」と「肉団子」は、
確かに正月料理とは言い難い。
かつての我が家の「おせち」の中にも、これらは入っていなかった。
ただ、言葉を既製品という部分だけで受け取るのであれば、
冷凍食品の「唐揚げ」と「肉団子」は、
充分に既製品という条件を、満たしていると思われる。

ちなみに、その百科事典によれば、
「おせち」とは、古くは節会(せちえ)をいい、
五節を季の変わり目とし、
神前に供えた食物を節供(せちく)といい、
これを全て「おせち料理」といった、とある。
五節というのは、人日、上巳、端午、七夕、重陽のことで、
それぞれ1月1日、3月3日、5月5日、7月7日、
9月9日となっている。
この並びで、11月11日が無いというのが、
ちょっと不思議な気もするが、
まあ、そういうものだと割り切ってしまおう。
この中でも、特に日本で重んじられているのが人日(じんじつ)、
つまり1月1日の「お正月」ということになる。
本来ならば、他の節会にも人日と同様のことを
行なうべきなのだろうが、日本では次第に他の節会は寂れていき、
(といっても、ひな祭り、こどもの日、七夕、菊の節句などとして、
 まだ節会自体は残っているのだが……)
お正月のみが、特に盛大に祝われるようになった。

江戸時代には、種々の食べ物を盛り込んだ「食積」が盛んに作られ、
「おせち料理」と「食積」が混用されて、
正月料理を「おせち料理」といっていたようである。
現在のような、重箱詰めの「おせち」の形態をとるようになったのは、
明治時代以降のことの様で、最初に書いた通り、
もともと重箱の中に入っている「煮染め」を指して、
「おせち」と呼んでおり、その後に、
様々な料理が一緒に盛りつけられるようになった。

調べてみた所、「おせち料理」には、
それを構成する所の基本型のようなものが存在しているらしい。
それによると、「三つ肴」と呼ばれる3種の品と、
煮染め、酢の物、焼き物というのが、その基本型で、
この「三つ肴」の中には、黒豆やカズノコなどが含まれている。
あくまでも、この基本型を踏襲するのであれば、
「おせち料理」というのは、6種類の品から成るということになる。
先に書いたように、もともとは「煮染め」のことを
「おせち」と呼んでいたことを考えると、
明治時代以降、これにあれこれと付け加えていくうちに、
そういう形をとるようになったと考えられる。
ただ、現在では、食品の保存技術も格段に進み、
「おせち」の中には、これらの基本型の枠を超えた、
様々な料理が盛り込まれるようになっている。
生もの、各種珍味、中華料理、西洋料理など、
もはや重箱の中は、多国籍料理の詰め合わせの様相を呈している。

さて、ここで自分の作った「おせち」を省みてみよう。
入っている料理は3種類。
「煮染め」、「唐揚げ」、「肉団子」である。

「おせち」のもっとも古い定義にあてはめるのであれば、
当然、「煮染め」の入っている自分の「おせち」は、
間違いなく、「おせち」ということになる。

さらに「三つ肴」と、「煮染め」、「焼き物」、「酢の物」という、
基本型とするものと照らし合わせてみれば、
「三つ肴」は全く入っていないものの、
「煮染め」は入っており、甘酢あんで和えた「肉団子」を
「酢の物」とし、「唐揚げ」を油での煎り焼きという風に考えれば、
おおよそ50%ほどは「おせち」ということになる。

もっとも定義の緩い(無い?)現在の基準で言えば、
当然、自分の作った物は100%「おせち」ということになる。

なんのことはない。
「それは「おせち」ではない」と、
身もフタもないことを言われた自分の「おせち」だが、
改めて、よくよく調べ直してみれば、
充分に「おせち」を名乗って良いシロモノだったのである。

さて、ここまで読んでくれた人なら、恐らく気付いているだろう。
「おせち」を名乗る上で、重要なポイントになるのは、
黒豆やカズノコ、栗きんとんや蒲鉾、
あるいは伊勢エビやローストビーフでもなく、
実は「煮染め」である。
この、全くなんてことの無さそうで、
重箱の中に入っていても、あまり見向きもされない根菜類の煮物が、
実は「おせち」の中ではもっとも歴史が古く、
「おせち」そのものといっても良いほどの存在なのである。
逆に言えば、「煮染め」さえ入っていれば、
他にいくらムチャクチャな料理を持ってきたとしても、
「おせち」としての体裁は、整うのである。

くれぐれも、「おせち」の中に
「煮染め」を入れ忘れることのないように。

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