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みぞれ鍋

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By: t-mizo

昨年末、我が家は大根が溢れていた。

もちろんその原因は、うちの畑での大根の過生産状態にある。
毎日、頑張って大根を消費しているものの、
これを上回る勢いで大根が育ち、これをどうしたものかと
頭を悩ませる日々であった。

そんな折、ちょうど妹と弟が帰省してきたので、
この2人にお土産として、大根を何本かずつ持たせてやった。
2人とも、自分が畑で大根を栽培しているとは
思っていなかったようで、畑一杯の大根を見て、かなり驚いていた。
ちょうど食べごろサイズの大根を見繕い、
小学2年生の甥っ子にこれを収穫させると、
甥っ子は興奮気味に大根を引き抜き(サイズが大きかったので、
結構、苦戦していた)、妹がそれを写真に収めていた。
都会で育っている妹家族にとって、
息子が畑で農作物を嬉しそうに収穫しているというのは、
かなり珍しい「絵」になるのだろうか?

こうして、ややダブつき気味だった大根がなくなり、
我が家の畑は、常時、食べごろの大根が1〜2本、
植わっている状態に戻った。
もちろん、この状態を維持していくためには、
やはり、今までと同じようなペースで、
大根を食べないといけないのだが……。

話を戻そう。
とりあえず、ダブついていた大根はなんとか処理できたのだが、
(後にこれらは、調理済み品となって、
 我が家に返ってくることになるのだが……)
日々のノルマとして、大根は消費していかなければならない。
我が家では、大根はいつも「大根飯」をメインにして
消費していたのだが、さすがに元旦の晩ご飯も「大根飯」というのは、
ちょっとさびしい。
何か大根を大量に消費しつつ、
それなりに豪華なメニューは無いものかと、色々調べてみると、
「みぞれ鍋」なるものが、自分の目に飛び込んできた。
その写真を見てみると、大きな土鍋一杯に、
大根おろしがまぶされている。
おお、これなら大根おろしとして、大量の大根を消費できるし、
「鍋料理」ということで、そこそこ豪華な料理になるはずだ。
早速、自分は詳しいレシピを調べ、それを実践してみることにした。

「みぞれ鍋」というのは、大量の大根おろしを使った鍋である。
鍋の中で火が通り、半透明になった大根おろしが
「みぞれ」に似ている所から、この名前がついた。
別名を「雪鍋」「淡雪鍋」というように、
どちらにしても大根おろしを「雪」に見立てている。
この辺り、昔の人の風流さを感じさせてくれる。
色々とレシピを調べてみたのだが、
この「みぞれ鍋」の作り方には、いくつか種類があるらしく、
大根おろしそのものをまず煮立て、
そこへ豆腐などの具材を加えていくもの、
普通の鍋をまず作り、その上から大根おろしをまぶしたものなど、
その作り方は様々で、これというほど決定的なものは無かった。
これらのレシピに共通しているのは、
ただ、大量の大根おろしが鍋全体にまぶしてあり、
それこそ「雪」が降ったような見た目になっている、
ということだけである。

この「みぞれ鍋」がいつごろから作られていたか?
ということに関しては、はっきりしたことは分かっていない。
文献的に余り記述が残っていないのである。
ウェブ上の記述の中には、「みぞれ鍋」の項目に
池波正太郎が湯豆腐の中に刻んだ大根を入れるとよい、と
記していると記述してあるものがあるが、
冷静に見ると、これは「みぞれ鍋」のことではなさそうである。
では、材料や道具などの来歴から、
その辺りを推定することが出来るか?と考えてみたのだが、
鍋、大根、鍋料理のどれもが、
有史以前より日本に存在しているものである。
これでは、何のヒントにもなりはしない。
敢えていうならば、大根を「大根おろし」に加工するための
「おろし器」ということになるのだが、
現在、多用されている「おろし金」は、
1712年に書かれた、江戸時代の百科事典「和漢三才図絵」に
載っていることから、江戸時代、もしくはその少し前辺りから
使われるようになったと考えられる。
当然、大根おろしもその辺りから……と思ってしまうのだが、
現在でも使われている陶製の「おろし皿」は、
その最古のものが正倉院の中に納められている。
遺跡の出土例からいえば、10世紀ごろから
「おろし皿」の出土例が現れ始め、
南北朝以後に急上昇していることから、
恐らくは鎌倉時代から室町時代にかけて、
食材を「おろす」という行程が、
広く行なわれるようになったものと考えられる。
ただ、これが「みぞれ鍋」という形になったのはいつか?
ということを考えると、やはり料理文化時代が大きく発達した、
江戸時代中期以降のことではないかということになる。

さて、そんなわけで、我が家の畑に植わっている大根を使って、
この「みぞれ鍋」を作ってみよう、ということになった。
レシピ自体はネットを調べれば、いくらでも転がっているので、
後は、そのうちのどれを選ぶか?という話になる。
色々とレシピを見た結果、ダシ汁を一切使わず、
大根おろしのみで、具材を煮ていくものにすることに決めた。
それが一番、大量に大根を消費できそうだからである。
具材には鶏のもも肉と、既製品の肉団子を選んだ。
野菜も豆腐も入らない。
まあ、普通の鍋のダシツユにあたる部分が、全て大根おろしなので、
ある意味、鍋の中でもっとも幅を利かせているのは
野菜であるともいえる。
鍋の中に、ブツ切りにした鶏肉と肉団子を並べ、
その上に大根1本分ほどの大根おろしをまぶす。
この時点では、完全に見た目は、大根おろしのみである。
果たしてこれに火を通して、焦げ付いたりしないのか?
という心配を抱きつつ、コンロの火にかけた。
しばらくすると、鍋の中がグツグツと沸騰し始め、
独特の臭いが吹き出し始める。
今まで、大根おろしのみを煮たことは無いのだが、
大根おろしのみを煮立てると、どうも独特の臭いがするようである。

充分煮立たせ、中の具材に火が通ったことを確認してから、
早速、これを食べてみた。
具材と大根おろしを一緒に小鉢に取り、ポン酢をかけ回して食べる。
不思議と、煮立てている途中に感じた臭いは、ほとんど感じなかった。
ポン酢が利いているのかもしれない。
鶏肉、肉団子とも柔らかく煮え、なかなかの味である。
あっという間にひと鍋平らげ、おかわりもしたのだが、
大根おろしが多すぎたのか、食べ終わった後、
鍋にたくさんの大根おろしが残ってしまった。
これにもポン酢をかけて、食べてみたのだが、
いかんせん、量が多すぎて食べ切ることは出来なかった。
次にやるときはダシ汁を使い、大根おろしの量を減らした方が
いいかもしれない。

今回、大根おろし100%での「みぞれ鍋」を作ってみたのだが、
煮立てた大根おろしは、結構強い匂いを出すので、
はっきり言って、好き嫌いが別れる出来上がりになる。
そこら辺を無難に作る、というのであれば、
既存の「ちり鍋」の出来上がりに、
適量の大根おろしをまぶした方がいいだろう。

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