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魚と肴

更新日:

国語のテストで、「さかな」という言葉を漢字に直せ、
というような問題が出た場合、
あなたは何と書くだろうか?

普通に日本で育った現代人であれば、
10人中10人が、「魚」と書くだろう。
もちろん、これは正解である。
だが、この問題を100人の日本人に出した場合、
多分1人か2人は、「肴」という漢字を書くかもしれない。
当然、これもこれで正解である。
「さかな」の前後に、文章などが添えられていなければ、
「さかな」という言葉を、「魚」とも「肴」とも
受け取ることが出来る。

この2つの「さかな」、
言葉の読みは同じだが、その意味が違っている。
いわゆる、同音異義語だ。
参考までに、手元の国語辞典でその意味を調べてみると、

魚……うお・魚類

肴……酒を飲むときに、つまんで食べるもの
   酒の興を添える歌や踊り、話題など

と記されている。
我々が「さかな」と聞いて、まず思い浮かべるのは、
上の「魚」の方で、いかに日本人にとって、
「魚」が重要な位置を占めているのかを、表している。

だが、もともと「さかな」といえば、
「肴」のことを指す言葉であった。
では「魚」のことを何と読んでいたか?というと、
これは「うお」と読んでいた。
この表現は、「古事記」や「万葉集」にも出てくるので、
日本では最初、「魚」のことを「うお」と読んでいたことは、
間違いが無さそうである。
今日でいう「カツオ」なども、もとは「カツウオ」であったし、
「トビウオ」などは、現在でも「うお」呼びのままである。
また「魚」の呼び方では、これを「いお」と読むこともあったが、
こちらの呼び方は、現在では全く使われていない。

では、いつから「魚」を「さかな」と呼ぶようになったのだろうか?
実は、これは結構最近のことで、戦後でさえ、
「魚」のことは「うお」としか読めなかったのである。
これが「さかな」と読まれるようになったのは、
昭和48年に音訓表が改訂されてからのことで、
それまでは国語のテストで「魚」の読みに、「さかな」と答えると、
間違いにされていたのである。
つまり、正式に「魚」を「さかな」と呼ぶようになってから、
まだ50年と経っていないのである。
それ以前は、基本的には「さかな」といえば、
「肴」のことを指していたのだ。
(ただ、「魚」を「さかな」と呼ぶようになった所を見ると、
 恐らくは、戦前から多くの人が「魚」を「さかな」と読んでおり、
 かなり一般的に認知されていた読み方だったと思われる)

では、その「さかな」という言葉は、どこから出てきたのか?
もともと「さかな」は、「酒菜」または「酒魚」と書いていた。
これは読んで字のごとく、酒を飲む際に一緒に食べる、
食べ物のことを指している。
要は、酒のおつまみの総称である。
その中で、魚や鳥獣類の料理を「真菜(まな)」といい、
植物性のものを「蔬菜(そさい)」といった。
マナイタというのは、この「真菜」を切ったり、
神前に供えるために用いた板をいうところから、
「真菜板(まないた)」となったのである。
恐らくは、この「蔬菜」が「酒菜」となり、
「真菜」が「酒魚」となったのではないかと考えられる。
やがて江戸時代に入り、酒のおつまみには
魚が使われることが一般的になった。
そのため、「魚(うお)」を「さかな」と呼ぶようになったのだろう。
もちろんこれは、正式な読みではなく、
一種の符牒のようなものだったのだろうが……。
江戸時代に発生したこの符牒は、徐々に世間一般へと広まっていき、
あたかも「魚(うお)」を「さかな」と読むのが、
正式な読み方であるように思われるようになり、
やがて昭和48年の音訓表の改訂によって、
それが正式な読みと、認められることになったのである。

こうして「さかな」という読みを持つ
「魚」と「肴」の2つの漢字が出来上がった。
先にも書いた通り、「魚」の方には、魚類一般を指す意味があり、
「肴」の方には、酒のおつまみを指す意味がある。
ただ、もともとは酒のおつまみとしての、
食べ物のことのみを指していたこの言葉も、
時代が進むにつれ、酒席を盛り上げるための歌舞音曲・話題なども
その意味の中に含まれるようになった。
食品の「肴」と区別するために、「肴舞」という言葉も作られた。
現在でも「○○の話を肴に〜」などという言い回しが使われるが、
これなどは食べ物以外の意味の「肴」の使用例の
もっとも顕著なものであろう。
ただ、皮肉なことに、「魚」を「さかな」と
呼ぶようになったころから、日本には世界各国から
様々な種類の酒が入ってくるようになり、
日本人は、日本酒以外にも様々な酒を飲むようになった。
日本酒には、なるほど「魚」を使った「肴」が抜群に合うが、
世界各国から持ち込まれる酒に、
「魚」の「肴」が合うとは限らない。
世界の酒の中には、「魚」を使った料理と相性の悪いものも多く、
「酒の肴」という言葉を使いつつも、
その実態は「魚」を使った料理ではなく、
肉を使ったものや、チーズなどの乳製品などであることがほとんどだ。
こういう現状から考えてみれば、
「肴」という言葉は、やがて「つまみ」という言葉に取って代わられ、
だんだんと使われなくなっていき、
そのうち、「さかな」といえば、
完全に「魚」のことをいうようになるのかもしれない。

そうなれば、今度は国語のテストで
「さかな」という言葉に「肴」という漢字を書くと、
バッテンを食らうようになるのだろうか。

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