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動物 雑感、考察

タヌキ

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By: snotch

先日のことである。
サッシ窓から庭を見ていると、
視界の中に小型の動物が飛び込んできた。

サイズは猫くらいであろうか?
色は灰褐色で、四つ足で歩いている。
最初はネコか?と思ったのだが、どうも様子がおかしい。
色合いからして、ひょっとしてイタチではないか?と、
疑ってみたのだが、イタチにしては体高があって、ずんぐりしている。
そっと、サッシ窓に近付いてよく見てみると、
顔の部分と、足の先が黒くなっている。
さらに鼻先が尖っており、顔つきも猫とはちょっと違うようだ。
やがて、その動物がこちらに顔を向けた。
どうやら自分が見ていることに、気がついたようだ。
イタチや猫なら、この時点で走って逃げていくのだが、
どういうワケかこの動物は、
こちらのことを気にするようなことも無く、
庭に落ちている柿の実を、鼻先で突いている。
よくよく見てみると、それは1匹のタヌキであった。

自分の住むたつの市揖西町は、結構な田舎なので、
多くの野生動物が生息している。
だが、我が家の周りは、ここ近年で再開発が行なわれ、
ちょっとした住宅街になっているので、
その手の野生生物も、あまり姿を見せない。
畑を荒らすことで害獣扱いされているシカやイノシシも、
我が家の周りには出てくることが無い。
山から離れているためだろう。
唯一の例外は、以前、我が家の屋根裏に侵入した
イタチやヘビだろうか。
これらは、普通に住宅地などにも出没するので、
我が家の周りに現れてもおかしくないのだが、
タヌキというのは、これまで目にすることが無かった。

こちらが珍しさから熱心に観察していると、
やがて、落ちている柿の実を食べて満足したのか、
のそのそと歩いて、去っていった。
その姿には、俊敏さを感じさせる所は全く無く、
どことなく、疲れ果てているようにも見えた。

タヌキは、ネコ目イヌ科タヌキ属に属する、ほ乳類である。
日本では、昔話でお馴染みのタヌキだが、
世界的に見れば、日本をはじめとする極東地域にのみ生息する、
極めて珍しい生物ということになる。
近年では、ヨーロッパにおいてもタヌキが繁殖し始めているが、
これは、毛皮を取る目的でソ連に移入されたタヌキが
野生化したものだ。
当初は、ソ連、ポーランド、東ドイツ辺りにしかいなかったものが、
現在では、フランスやイタリアでも、その姿が確認されている。
ソ連に移入されたのが、1928年のことなので、
おおよそ1世紀の間に、ヨーロッパ中へと広がっていったようだ。
日本では「タヌキ」という名で知られているが、
存外、この英語名については、知らない人間が多いだろう。
キツネの英語名が「fox」と、すぐに思いつくのとは、
エラい違いだ。
この辺りが、タヌキが長く、極東地域のみに生息していたという、
何よりの証拠であろう。
タヌキは英語名で「raccoon dog」という。
「raccoon」というのは、「アナグマ」のことを指しており、
これにイヌを意味する「dog」をつけたして、
「タヌキ」の意味とした。
いかにも急造で作られた名前、という感じがする。
この「アナグマ」と「タヌキ」は、
日本でも長い間、同一視されていて、
「狢(むじな)」という名前などは、地方によってそれぞれ、
「タヌキ」と「アナグマ」のどちらか、
あるいはその両方を指す言葉として使われていた。
この2つを同一視していない辺り、
西洋人の方が観察力があるということだろうか?

生態は夜行性で、森林で生活する。
……。
真っ昼間に、住宅街にある我が家の庭に現れたことを考えると、
何ものにも例外というのはあるらしい。
単独、またはペアで行動し、一度ペアを組むと
死ぬまで解消されることは無いようだ。
脅威の離婚率0%である。
日本では同じような理由で、
結婚式では「鯛」を尊ぶ風習があるが、
(実は、鯛も夫婦単位で行動しており、
 どちらかが釣り上げられたりすると、
 相方は、ずっと同じ場所で待ち続ける習性があるといわれている)
同じように、結婚式に「タヌキ汁」を食べると、
日本の離婚率が下がるかもしれない。
縄張りというものを持たないので、
複数のタヌキが同じ場所で活動することもある。

死んだふりや、寝たふりをすることを、
「タヌキ寝入り」といったりするが、
これは、猟師が鉄砲を撃った際、その銃声に驚いて、
弾が当たってもいないのに気絶してしまい、
猟師が獲物を仕留めたと思い近付いて行くと、目を覚まし、
そのまま逃げ去っていくという、事例から来ている。
「タヌキ寝入り」をするというと、
どこかふてぶてしいイメージがついてまわるが、
実際の所、タヌキの方ではそのような計算高い所は無く、
ただ、臆病な性格の結果として、そうなっているだけなのである。
面白いことに、この「タヌキ寝入り」、
英語では「fox sleep」と呼ばれる。
つまり、直訳すれば「キツネ寝入り」だ。
そういう言葉がある、ということは、
キツネもまた、猟師に鉄砲で撃たれると、
弾の当たり外れに関係なく、死んだふりをするということだろう。
こちらもタヌキと同じように、臆病の成せる技なのか、
あるいは「擬死」と呼ばれる、
ハンターを油断させる技なのだろうか?
面白いことに、この「タヌキ寝入り」で気絶している状態が、
「魂が抜けている」様に見えた所から、
「たましいぬき」→「たまぬき」→「たぬき」になったともいわれる。
「卵が先か、ニワトリが先か?」ではないが、
「タヌキが先か、タヌキ寝入りが先か?」のようにも受け取れる。
なんとも、ミョーチクリンな話である。

最近では、我が家の庭にも出没するようになったタヌキだが、
一時期は、毛皮採取目的で乱獲され、
全国的な絶滅危機に瀕したことがあった。
さらに全国の山林が開発により減少したため、
彼らの本来の生息域が、急速に減少していき、
いよいよタヌキの存続がピンチか?と思われたのだが、
彼らは都市へと進出し、そこに生活圏を築いていった。
人家のある都市部に生息している限り、
彼らはハンターによって、その命を脅かされることは無い。
タヌキは、なかなかにしたたかだ。
だが、禍福はあざなえる縄の如し。
人の住む場所に住み着くことで、比較的安全な住処を手に入れたが、
そこには人間の生活道路があり、車が常時、走っている。
その名前の由来になったように、
タヌキというのは非常に臆病な生き物だ。
道路の横断中に車のヘッドライトに照らされると、
思わず身体がすくんでしまい、逃げることが出来ず、
そのまま車にはねられてしまうのだ。
タヌキが車にはねられる数は非常に多く、
特に高速道路上では、車に接触して死ぬ動物のうち
4割がタヌキだという。
最近では、動物たちが交通事故に遭わないよう、
道路をくぐる、動物用のトンネルが設置されることもあるようだ。

さて、話を我が家のタヌキに戻そう。
このタヌキが我が家に姿を見せたのは、まだたったの1回なのだが、
ちょうどタイミングを同じくして、
うちの畑の大根が齧られているのが見つかった。
まだ、それほど被害は拡大しておらず、
犯人がタヌキと決まったわけではないのだが、
もしこれが、タヌキの仕業ということになるのであれば、
イタチのとき以来の捕獲作戦を展開しなければなるまい。
その場合、捕らえたタヌキの処遇は、
当然、「タヌキ汁」ということになる……、かもしれない。

そういう血なまぐさい、いや、タヌキ臭い展開にならないよう、
これ以上の被害がでないことを、祈るのみである。

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