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怪魚、現る

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少し前の神戸新聞の地方版に、こんな記事があった。

「アユ釣り名所にアリゲーターガー 捕獲挑戦も不発」

わかりやすくいうと、
揖保川の下流・中川にアリゲーターガーが現れたため、
揖保川漁協がこれを捕獲しようと、捕獲作戦を展開したが、
ものの見事にこれが不発。
今もアリゲーターガーは揖保川で生息しており、
これからの時期、アユの産卵が始まるため、
卵を抱えたアユが、これに食い荒らされないかを
懸念しているという。

アリゲーターガーといえば、ここの所、
日本各地の池や川で発見され、ちょっとした話題になっている。
有名なところでは、名古屋城の堀に
全長1mほどのアリゲーターガーが泳いでいるのが発見され、
大きな話題になった。
これが、ついに揖保川にまでやってきた、ということである。

アリゲーターガーは、レピソステウス目レピソステウス科
アトラクトステウス属に属する淡水魚である。
思わず舌を噛みそうになるくらい、
耳慣れない種に分類されているが、それもそのはずで、
元々は日本に生息していなかった、外来種である。
全長は約2mにもなり、北アメリカでは最大の淡水魚である。
もちろん世界的に見ても、
これに匹敵するほどの大きさを持つ淡水魚は、
数えるほどしかいない。
日本で最大の淡水魚といえば、
北海道などに生息しているイトウで、
これは1m〜1.5mほどの大きさになるのだが、
(今までに捕獲されたものでは、2.1mの個体もいた。
 ただ、そこまで大きくなる個体は極めて稀で、
 大方は上記したサイズほどにしか、成長しない)
アリゲーターガーは、これを大きく上回るわけである。
こちらは最大のサイズで3m、もっとも重い個体で157kgという
巨大なものが捕獲されているので、
これが日本の川で生息している、ということになると、
文句無く、アリゲーターガーこそが
日本最大の淡水魚ということになる。

だが、このアリゲーターガーの特徴は、
そのサイズだけではない。
その名前の由来になっている通り、
ワニの様な細長い口を持っており、頭部だけ見れば
ワニと間違えられることもある。
食性が肉食性、ということもあり、
ワニの様な凶暴な魚というイメージが先行してしまっているが、
実は結構おとなしい性質を持っている。
つまり積極的に獲物を追いかけるのではなく、
待ち伏せをするタイプのハンターなわけである。
後に述べるが、アリゲーターガーがペットとして好まれたのは、
そのワニの様ないかつい顔の他にも、
丈夫でおとなしい性格だったため、
比較的飼育が簡単だったからである。
同じ水槽で他の魚を一緒に飼ったとしても、
そのサイズがアリゲーターガーの半分くらいのサイズがあれば
食べられたりする様なことは起こらない。
(ただしそれより小さいサイズになると、
 尾ビレなどを齧られたりすることは、あるらしい)
むしろ、ナマズなどを一緒に入れておくと、
アリゲーターガーの方が、攻撃を受けることもあるという。
よくよく考えてみれば、
アリゲーターガーがあちこちで見られるようになって久しいが、
これまでに人が襲われた、という話はついぞ聞いたことが無い。
もちろん、うっかりとこれを釣り上げた場合、
面白半分にこれをいじったりすると、
そのワニの様な口でケガをさせられることもあるかも知れないが、
そういう事例でさえ、まだはっきりとは聞こえてこないのである。
そう考えてみれば、神戸新聞にあった
「産卵を控えたアユが、食い荒らされる」というのも、
アリゲーターガーのいかつい外見だけにふり回された、
イメージだけの話であることが分かる。
もちろん、アリゲーターガーが肉食性の魚であることは事実なので、
多かれ少なかれエサとして、何らかの生物を食べているのは確かだが、
その性格からして、深刻な被害が出るとは考えにくい。
ましてや「人間が襲われる」などという話は、
正直、荒唐無稽といっていい与太話である。

もう1つ、これはあくまで環境的に、ということになるのだが、
アリゲーターガーが、日本の生態系にとって、
どれほどの「害」になるか?という話になる。
日本の生態系に大きな影響を及ぼしているといえば、
同じ淡水魚のブラックバスや、ブルーギルなどが挙げられるが、
果たしてアリゲーターガーは、これらに続く
在来種の天敵となりうるのだろうか?

実は、これについては、あまり問題視されていない。
確かにここの所、日本全国でアリゲーターガーが目撃されているが、
それらは全て、かなり大型の個体ばかりである。
これらは間違いなく、ペットとして飼われていたものが
不法放棄された、そのものの個体である。
アリゲーターガーは琵琶湖でも生息が確認されており、
捕獲も行なわれているのだが、
捕えられるのは大型の個体ばかりで、
稚魚、幼魚に関しては、全く確認されていないのである。
(あくまでも、これまでは、という話だが……)
小さな河川などで、その1匹しか生息していないというのであれば、
まあ、繁殖の可能性はあり得ないと、言い切ることが出来るが、
琵琶湖ほど大きな湖沼ということになれば、
1匹しか生息していないということもあるまい。
恐らく、不法投棄された匹数も1匹や2匹程度であるはずも無く、
その中には、当然、オス・メスがいるはずである。
だとすれば、産卵をして子供を作っていて、いいはずだが、
少なくともアリゲーターガーの
稚魚・幼魚というのは見つかっていない。
これは一体何を意味しているのか?

いくつか考えることは出来る。
ひとつは、日本の気候・環境では、アリゲーターガーは
繁殖を行なうことが出来ない、というパターンである。
元々、アリゲーターガーが生息していた環境と違うため、
産卵そのものが行なわれないか、
産卵が行なわれたとしても、卵が孵化しないのかも知れない。
だとすればアリゲーターガーは、ペットとして持ち込まれた個体が
全て寿命を迎えれば、日本から消えてなくなることになる。
(だが、アリゲーターガーの寿命は25年〜50年と、
 相当に長いので、全てが死滅するには
 かなりの期間がかかるものと思われる)
ブラックバスやブルーギルが、日本の生態系に
大きな影響を与えることが出来たのは、
ひとえに彼らが、日本の環境の中で繁殖を行ない、
その数を増やし得たからである。
さらに、彼らは日本在来種の稚魚などを
そのエサにすることにより、
在来種の存続そのものに、大きな影響を及ぼした。
だが、少なくともアリゲーターガーに関しては、
そのように繁殖しながら、
在来種の稚魚を食べ漁っていくようなことは、
起こりえないのではないかと、考えられる。

環境省は2016年3月14日に、
アリゲーターガーを含む、ガー科魚類を
特定在来種に指定することを発表した。
飼育者の多い魚種であることを鑑み、
施行までには2年の猶予を設け、
2018年から施行される予定になっている。
かつてはペットとして、かなり高価だったアリゲーターガーだが、
やがて値崩れを起こし、安価なペットになってしまった。
そのため、これを軽い気持ちで飼い始める人が増えたのだが、
先にも書いた通り、アリゲーターガーは最長で50年もの寿命を誇り、
最大で3mにもなりうる魚である。
普通に考えれば、いつかこれを持て余す時が来るのは、
火を見るよりも明らかだ。
国によるアリゲーターガーの引き取りなど、
具体的な処理方法を提示せずに、規制だけを作る様なことをすれば、
規制前に処分してしまえ、とばかりに、
池や川に捨てられるアリゲーターガーが増えるのは、
必至だと思われる。

大きくなり、飼い主に持て余されて、捨てられるアリゲーターガー。
いずれ日本中の川や池で、その姿を見ることになるのかも知れない。

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