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坊ちゃん団子

更新日:

愛媛・石鎚山からの帰り道、
土産物を買うために、あるSAに立ち寄った。

登山に参加していたメンバーは、銘々に土産物を物色し始め、
自分もまた1人で、土産物売り場を見て回った。
この土産物売り場は、ずいぶんと気前のいい(?)売り場で、
多くの試食品が置いてあり、弁当箱大のタッパーの中には、
惜しげもなく土産物が入れられていた。
そんな中、あるタッパーをあけてみると、
中に直径2㎝ほどの球体が、一杯に入っていた。
色は3種類あり、緑、黄色、小豆色の3色である。
タッパーの横には爪楊枝が用意してあり、
これで中の団子を突き刺して、食べればいいようである。
早速、爪楊枝を手に取って、タッパーの中の団子を1つ食べてみた。
パッと見た感じには、3色のアンコが
ただ丸められているだけの様に見えるのだが、
食べてみると、中心部分に小さな「餅」の部分が存在している。
アンコの色から考えれ見れば、
緑は抹茶餡、黄色は黄身餡、小豆色は小倉餡のようだ。
普通の餡団子に比べると、明らかにアンコの比率が多いのだが、
それを意識してか、若干アンコの甘味が控えめな気がする。
タッパーの中には、3種類の団子がバラバラにされて
無造作に入れられていたのだが、
タッパーの周りに並べられていた商品を見ると、
もともとは、3色の団子が1種類ずつ、串に刺さっているものらしい。
そう。
松山は道後温泉名物、「坊ちゃん団子」である。

「坊ちゃん」といえば、夏目漱石による小説の1本だ。
漱石の作品の中では「我が輩は猫である」と並んで、
彼の代表作として挙げられることの多い作品である。
東京の大学を卒業したばかりの新任教師である主人公が、
四国の中学校に赴任していくのだが、
持ち前の江戸っ子気質が災いしてか、トラブルが絶えない。
最後には陰湿な教頭とその腰巾着を血祭りに上げ、
1ヶ月ほどで教師を辞め、東京に帰るというストーリーである。
この「坊ちゃん」の中に、
温泉(道後温泉)に行った主人公・坊ちゃんが、
大変うまいという評判の団子を食べる下りがある。
……。
ツッコミが聞こえてきそうだ。
なんだ、主人公・坊ちゃんて、ちゃんと名前を書け、と。
実は「坊ちゃん」の主人公・坊ちゃんには名前がない。
まあ、人間である以上、名前が無いということもないのだろうが、
少なくとも、小説「坊ちゃん」の中で、
彼の名前が明かされることはなく、
彼は最初から最後まで、「坊ちゃん」で通してしまうのである。
同じ夏目漱石の小説「我輩は猫である」も、
冒頭「名前はまだない」と始まっているので、
存外、漱石は主人公の名前を明らかにしない
クセでもあるのかも知れない。
それはともかくとして、坊ちゃんが食べたといわれる団子は
実際に道後温泉に実在していた団子がモデルになっていて、
それは赤餡と白餡で包んだ団子を、3つ串に刺した、
「湯ざらし団子」というものであった。
(小豆餡のみの団子だった、という話もある)
これが大正10年ごろに、緑、黄、小豆色という3色になり、
「坊ちゃん団子」という名前に変更された。
小説「坊ちゃん」の人気に便乗したものと思われる。

実は、夏目漱石が「坊ちゃん」を書くきっかけになったのは、
彼自身が愛媛県の中学校教師として赴任した経験が元になっている。
(後には、登場人物の一人一人が、
 実在の人物がモデルだったのでは?ということになり、
 当時の漱石の周りにいた人間たちが、
 あのキャラクターのモデルだ、だの、
 このキャラクターのモデルだ、などと考察された。
 そういう見方をするのであれば、主人公・坊ちゃんのモデルこそ、
 作者である漱石自身、ということになるのだが、
 実は坊ちゃんにも、モデルになった人物が、
 他にいたと考えられている)
当然、坊ちゃんが食べた「団子」に関しても、
もともとは漱石が食べたもの(上記の「湯ざらし団子」)
だったわけである。
伝えられるところによれば、
漱石はこの団子を二皿も平らげた、といわれているのだが、
「歴史上の人物の好物」の記事で書いた通り、 
彼は元々強烈な甘党である。
二皿くらいでは、満足できなかったかも知れない。

以前、「団子」について書いた際、
1999年に「だんご3兄弟」の大ヒットによって、
一時的な団子ブームが巻き起こったことを書いた。
このとき、一般的な団子はひと串に4個刺してあったのだが、
多くの団子屋は、このブームに便乗するために
いつもは4つで販売している団子を、
3つに減らしたりして物議をかもしたのだが、
もともとひと串3個であった「坊ちゃん団子」は、
その問題に煩わされることなく、大幅に売り上げを上げた。
その際、3つそれぞれの色が違うことが、大いにウケた。
時代は同じ串に刺さった団子3兄弟にまで、
それぞれの個性を求めるものらしい。

かつては、道後温泉でのみ販売されていた「坊ちゃん団子」だが、
現在ではどんどん販売ルートが拓け、
駅、空港、高速道路のSAなど、
松山近辺のみならず、ほぼ愛媛県内の各所で販売されている。
(高速道路のSAということになれば、
 それこそ愛媛といわず、近隣県のSAでも販売されている)
個包装による、バラ売りも行なわれているので、
土産物のみならず、買ったその場で食べることも出来る。
愛媛に立ち寄った際には、是非つまんでおきたい。

もちろん、甘党であった作者・夏目漱石にちなんで、
たらふく食べてみるのもいいだろう。

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