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黄身返し〜実践編

更新日:

とある料理マンガに出てきた「黄身返し玉子」。
それは、ゆで卵の黄身と白身が、
きれいに入れ替わっているという、不思議なゆで卵である。

江戸時代に記された「玉子百珍」の中で、
その作り方が紹介されているのだが、
幾多の料理人がこれに挑戦してみるも、
誰1人として成功したことが無いという、幻の卵料理である。

これに興味を持った自分は、早速、インターネットで
「黄身返し玉子」について検索してみた所、
何と画面いっぱいに「黄身返し玉子」の写真が表示された。
詳しく調べてみると、どうやら誰でも簡単に
「黄身返し玉子」を作ることが出来るようである。
誰1人として成功したことのない、幻の卵料理ということだったが、
これを見る限りでは、幻でも何でも無いようだ。

そうと分かれば、早速、試してみたくなるのが人情である。
さらに情報を集め、「黄身返し玉子」作りを
実践してみることにした。

「玉子百珍」の記述によれば、
「黄身返し玉子」の作り方というのは、
玉子の頭の部分に小さな穴をあけて、糠味噌に3日間漬け込み、
これを洗って茹で上げるだけである。
常識的に考えれば、そんなことをした所で
白身と黄身が入れ替わるはずがない。
ひょっとすると「玉子百珍」の記述には、
何か大きな記述漏れがあるのかも知れない。

調べてみた所、「玉子百珍」の記述通りの方法で
「黄身返し玉子」を作るには、
まず、産み落とされて3日目くらいの「有精卵」がいる。
これを3日間ほど孵化温度(38度)にしておくと、
卵の中で胚の発生が始まり、卵白から卵黄への水分の移動が起こって、
黄身と白身が混じり合うらしい。
この変化が発生しない限り、
どんなに腕のいい料理人がやってみたところで、
「黄身返し」は成功しない。
「玉子百珍」の記述に「糠味噌に漬け込む」とあるのだが、
ここの部分で、孵化温度になっているか、いないかが、
成功と失敗の分岐点といえるだろう。
38度といえば、糠味噌としては
かなり温度が上がっている状態なので、
(糠味噌の適温は20〜25度、40度を超えると糠味噌の中の
 乳酸菌が死滅してしまうので、38度というのは
 糠味噌としては、非常に危険な状態であるといえる)
もし「黄身返し」を成功させたいのであれば、
糠味噌をダメにする覚悟が必要だ。
こうして黄身と白身が混じり合った卵を茹で上げることによって、
黄身と白身の入れ替わった「黄身返し玉子」が出来上がるのである。
……。
ここで、「ん?」と思った人は、ちゃんとモノを考えている人だ。
そう。
黄身と白身が入り混じった卵を茹でたとしたら、
黄身も白身もない、淡黄色のゆで卵が出来るのではないか?
少なくとも、黄身と白身が入り混じったのなら、
本来、黄身があるはずの場所に、白身があるはずがないではないか。
しかし、実際に黄身と白身が混ざった状態でゆで卵を作ると、
本来黄身があるはずの場所に、白身が存在している。
これは一体、どういうことなのか?

実は、卵の白身の「濃さ」というのは、均一ではない。
水分の多い「薄い」部分と、水分の少ない「濃い」部分がある。
卵を割らずに黄身と白身を混ぜ合わせると、
この「薄い」白身と黄身は混じり合うものの、
「濃い」白身と黄身は混じり合わない。
つまり、卵の中で黄身と白身を混ぜ合わせたとしても、
卵の中の卵液は均一にはならず、
黄身と「薄い」白身が混じった部分と、
「濃い」白身の部分に分かれるのである。
これを、お湯の中で転がしながら茹で上げると、
「濃い」白身が、中心部に来ることになり、
ちょうど黄身と白身が入れ替わった様な仕上がりになるのである。

さて、以上のことから「黄身返し」のポイントを書き出すと、

・卵の殻を割らない状態で、黄身と白身(薄い部分)を混ぜ合わせる

ということになる。
「玉子百珍」に書かれていた方法は、
有精卵の孵化による水分の移動を利用して
黄身と白身を混ぜたわけである。
逆に言えば、殻を割らずに黄身と白身を混ぜれるのであれば、
どんな卵を用いても「黄身返し」を成功させることが
可能なはずである。

調べてみた所、有精卵の孵化を利用する方法の他にも、
小さな穴をあけて針などを入れ、中の黄身を破る方法、
高速で回転させることにより、中の黄身を破る方法などがあった。
なるほど、理屈さえ分かってしまえば、
あの手この手で黄身と白身を混ぜ合わせる方法も、
考えられるのである。

今回、それらの方法の中から、
卵を高速回転させる方法をとることにした。
必要なものは、卵の他にストッキングと針金である。

まず、ストッキングの足の部分の真ん中あたりに結び目を作る。
ストッキングの中に卵を入れ、結び目の部分まで押し込んだら、
結び目の反対側を、針金で縛る。
そうすると、ちょうどストッキングの真ん中あたりに
卵が固定されることになる。
そのままストッキングの左右を持ち、
真ん中の卵の部分をクルクルと捻っていく。
100回ほど捻ったら、ストッキングの左右の部分を
広げるように引っ張る。
そうすると、ちょうどブンブンゴマと同じ様な要領で、
真ん中の卵が高速で回転することになる。
これを何度か繰り返した後、針金を外し、
そのまま卵を鍋の中で10分ほど、転がしながら茹で上げる。
茹で上がった卵を、そのまま水につけて冷ましたら出来上がりである。

……。
どうも幻の「黄身返し玉子」を作っているにしては、
やっていることが、ミョーな感じだ。
ひょっとして、あの料理マンガのライバルも
こうやってストッキングを手に、卵を回転させたのだろうか?
あのいかつい顔のライバルが、
ストッキングを手に卵を捻っていたとしたら、
これはあまりにも絵にならない。
作者が、「黄身返し玉子」の製作行程を、
全く描かなかったのも頷ける。

まあ、そういう感想は横に置いておいて、
問題は茹で上がった卵が、キチンと「黄身返し」状態に
なっているかどうかである。
卵をシンクの角に軽く叩き付け、ヒビを入れる。
そこから殻を剥がしてみると、
何と白身が淡黄色に染まっているではないか。
こ、これは幻の「黄身返し」!!と、
ひととおりマンガのマネをした後、
きれいに皮を剥いた。
その上で包丁を入れ、これを縦割りにしてみると、
しっかりと中央部分に、白い部分があるではないか。
幻の「黄身返し」は、意外と簡単に成功したのである。

だが、ここからがっかりする様なことを書かなければならない。
そう、「黄身返し玉子」の味についてだ。
散々、幻の「黄身返し」などと煽られてきているので、
その味についても、ついつい過剰な期待を持ってしまうのだが、
実は「黄身返し玉子」の味は、普通のゆで卵に及ばない。
本来、濃厚な黄身が、「薄い」白身と混じり合うことで、
その濃厚な味わいが全く無くなってしまい、
まるで白身だけのゆで卵を食べている様な感じになるのだ。
(ひょっとすると、黄身の濃厚な良い卵を使えば、
 状況は変わるかも知れないが……)
半分を、普通のゆで卵のように塩をかけて食べてみたのだが、
味にメリハリがなく、全然美味しくなかった。
もう半分は、ダシツユをかけて食べてみた。
塩で食べるよりは、こちらの方が美味しかったが、
それにしても、やはり濃厚な黄身の味わいが無くなるだけで、
あれほど、ゆで卵が味気なくなってしまうとは、
なんとも残念な結果であった。

幾多の料理人が挑戦して、誰も成功しなかった
幻の卵料理「黄身返し玉子」。
見た目のインパクトは絶大で、人を驚かせる分には効果抜群だが、
その味わいは、非常に残念なことになる。

この記事を読んで、自分もやってみようという人も
いるかも知れないが、
味については期待できないことだけは、覚悟しておいてほしい。

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