この時期、山道を歩いていると、木にサツマイモがぶら下がっている。
木にサツマイモがぶら下がるワケないじゃない、と思った人は正しい。
サツマイモはつる性のイモで、木にはならない。
木にぶら下がっている以上、これはサツマイモではない。
しかし、野暮ったく長細い形、赤紫色、どうみてもサツマイモだ、
落ち着いてよく見ると、そのサツマイモの中にバックリと割れたものがある。
その割れた中に、何も入っていないこともあれば、
何かよくわからないが、芋虫のような形をした、
白っぽいものが入っていることがある。
これが「アケビ」だ。
「アケビ」は、つる性落葉低木の一種だ。
つまり、山の中を歩いていても、この木になっているということはなく、
つるに巻かれている木を見つけたら、覗き込んでみて、
「アケビ」かどうか確認しないといけない。
確認はすぐだ。
「アケビ」の果実がぶら下がっていれば、それが「アケビ」である。
たまにイバラ状の木に巻き付いていることもあるが、
そういう場合は実を採るときに注意しないと、
思わぬ怪我をすることがある。
ちょうど今くらいの時期、このツルにたくさんの実がなる。
先に書いた通り、サツマイモにそっくりな実なのだが、
まだ未熟な実は緑色をしている。
これが熟れるにつれて、サツマイモそっくりの赤紫色になる。
やがて適度に熟すと、このサツマイモがバックリと割れ、
中の甘い果肉の部分が姿を現す。
ただ、これは自分の経験から言えることだが、
まだ実が割れていなくても、サツマイモと見まごうほどに赤紫色になっていれば、
すでに甘くなっている。
手に取って、実をよく見てみると、近い将来割れる場所に、
うっすらとスジが入って見える。
これが見えていれば、まずその実は食べれると思っていい。
もちろん、パックリと割れている実があれば、それを収穫してもいい。
ただ、すでにパックリと割れて果肉が見えているということは、
鳥や虫も果肉を食べれるようになっている、ということである。
たくさんの実の中には、中の果肉が無いものもある。
こういうものは、すでに鳥などに果肉を食べられているのである。
すでに自分たちの世代ではそういうこともなかったが、
昔の子供たちは、この「アケビ」を格好のオヤツとしていたらしい。
サツマイモのような外皮の中に、収まっている果肉だが、
これは白くわずかに半透明だ。
形は芋虫に似ている。
パッと見た感じは、皮を剥いた後のバナナにも見える。
実際、果肉はねっとりとしていて、バナナのように甘い。
ただバナナと決定的に違う所は、果肉の中に種がたっぷりと入っている所だ。
種は黒く、かなりの数が均等に入っている。
だから、果肉はバナナのようにモシャモシャと食べることはできず、
口の中で果肉を舐めとかすようにして、食べなければならない。
そして、種の数が多いため、甘い果肉の部分は悲しいくらいに少ない。
ものの30秒も、口の中で舐めていると、果肉部分はほとんど無くなってしまう。
そして後は、種を吐き出さなければならない。
山の中で、歩きながら食べる場合は、何も気にせず、山の中に吐き捨てればいい。
「アケビ」自身もそうなるようにしているわけだから、
エチケットとか、そういうものを気にせず(他に誰かいれば、
人の目は気になるかも)、盛大に種を吐き出せばいい。
プロレスの悪役レスラーの技に、染料を口から吹き出す、
「毒霧」という技(?)があるが、あの要領である。
日頃のストレスも、吹き飛ぶかもしれない。
ただ、家の中で「アケビ」を食べる場合、そういうわけにもいかない。
口の中で充分に果肉を味わった後、皿の上か、ティッシュの上にでも
静かに吐き出さないといけない。
この「種を吐き出す」という行為が、いささか行儀が悪く見える。
この辺りが、「アケビ」がメジャーになれない理由かもしれない。
自分の地元では、その辺に生えているものを採ってくるしかない「アケビ」だが、
実は人間の手によって、栽培されている。
そして、日本の「アケビ」のシェアを、80%以上占めているのが山形県だ。
山形県では、スーパーなどでも「アケビ」を購入することができる。
中の果肉を食べるのはもちろん、果皮にひき肉を詰め込んで揚げたり、
果皮を刻んで炒め物にしたりする。
また「アケビ」の実だけではなく、新芽なども山菜として利用している。
「木の芽」といえば、普通は「山椒」の葉のことをさすが、
山形県で「木の芽」といえば、「アケビ」の新芽のことをさしている。
果実、新芽以外にも、茎も生薬として利用される。
木通(もくつう)と呼ばれ、利尿作用、抗炎症作用、通乳作用がある。
「アケビ」は登山道や林道の脇などで、数多く見ることができる。
しかし、そういう場所には、得てして急な斜面があったりする。
上にばかり気をとられ、不用意に体を伸ばすと、
足下には目もくらむような急斜面。
自分自身、欲に目がくらんで、怖い思いをしたこともある。
「アケビ」に目を奪われ、滑落事故など起こさないようにしたい。