我が家の畑に、奇妙な植物が植えられている。
別段、色がおかしいとか、変な格好をしているというのではない。
ただただ、巨大なのだ。
今年、まだ寒さが残っていたころ、友人からイモを貰った。
かなり変わったイモで、その名を「キクイモ」といった。
貰った袋を開けてみると、妙にボコボコとした形状のイモがいくつも入っていた。
パッと見た感じでは、生姜に近い。
このうちのいくつかを食べずに、畑に植えてくれ、ということだった。
とりあえず、ふかして食べてみたのだが、甘味があり美味しい。
生でも食べることができる、ということだったので、
皮を剥いた後、極細切りにして、ポン酢をかけて食べてみると、これもいけた。
食感はシャリシャリとしていて、とてもイモとは思えない。
甘味もあり、梨を食べているようだった。
いくつかを食べずにおくと、イモに芽が出た。
とりあえず畑に植えてくれ、ということだったので、
家の畑(というには、長らく何も作っていない、
土の盛り上がりに過ぎないのだが……)に、植えてみた。
友人によれば、特に手をかける必要もないらしい。
その言葉通り、間もなく土の中から芽が出てきた。
そのまま何も手をかけることもなく、成長していく姿を見守っていた。
芽は順調に伸び続け、やがて30cmほどになった。
しかし、それでも成長は止まらなかった。
50cmを越えたころ、「これ、どれだけ大きくなるんだ?」という疑問がわいた。
同じイモでも、ジャガイモなどは5~60cmほどにしかならない。
サツマイモなどは、ツルが地面の上を這うだけである。
地上部分が大きくなる里芋でさえ、1mを超えることはない。
友人に聞いてみると、何と地上部分が2mを超えるという。
2m。
これはただ事ではない。
日本の畑には、果樹を除いて2mを超えるような作物はない。
改めて調べてみると、3mに達することもあるという。
正直、大きくなってもジャガイモ程度だろうと思っていたので、
ジャガイモを植えるときと同じ間隔で、キクイモを植えてしまった。
キクイモは大きくなり続け、1mを超えた。
すでにかなりの迫力である。
だが最大で、あと2m、大きくなるというのだ。
しかし、ここで狭い間隔で植えたためか、
6本植えたうちの左2つの成長が遅れ始めた。
やがてそのまま弱り続け、ついには枯れてしまった。
残りは4本である。
夏。
強い台風がやってきた。
家の中でも、雨漏りが起こったりして大変だったのだが、
キクイモにも多大な被害が出た。
強風にあおられて、4本ともばったりと倒れてしまったのだ。
幸い、茎は折れてはいなかった。
きちんと伸びるように、添え木をしていたのだが、
この添え木ごとばったりと倒れてしまった。
しかし添え木があったせいか、茎が折れなかったのだ。
台風の後、急いで添え木を外し、もう一度まっすぐに立て直して、
これにキクイモを縛り付けた。
かなり乱暴な戻し方だが、他にやりようもない。
4本は枯れることもなく、さらに大きくなっていった。
やがて2mを超えた。
もはや自分の身長を、完全に追い越している。
このころになって、右から3本目の成長が遅れ始めた。
茎も細く、高さも半分ほどしかない。
しかし、いまだ枯れずにがんばっている。
キクイモはキク科ヒマワリ属の多年草である。
別名がアメリカイモであることからもわかるように、
北アメリカが原産地である。
先に書いたように、草丈が3mにも及び、菊に似た黄色い花が咲く。
10月の末ごろには、地下に塊茎ができる。
これが俗にいう「キクイモ」となる。
日本に入ってきたのは江戸時代末期で、飼料用作物として持ち込まれた。
栽培されているもの以外では、第2次世界大戦中に加工用や食用として
栽培されていたものが、野生化したものがある。
繁殖力が強く、河川敷や草地に生育している在来種を
駆逐する可能性が指摘されている。
そのため、外来生物法では「要注意外来生物」に指定されている。
料理法として、牛乳煮、バター焼き、スープ、味噌漬け、煮物などがある。
イヌリンという多糖類をふんだんに含んでおり、
生のキクイモには、20%ものイヌリンが含まれている。
イヌリンは消化によって、キクイモオリゴ糖になるため、
健康食品として加工されることもある。
さらに果糖の原料にもされる。
もちろん、先に書いた通り、生食することも可能である。
甘味が強いので、それを考慮した調理法が良いようだ。
さて、そういう事情で我が家の畑に植わっているキクイモだが、
最近、ついに花が咲いた。
といっても、木の上方に咲くので、横に立っても花は見えない。
家の2階に上がり、窓から眺めると、ようやく花の様子が分かる。
直径5cmほどの黄色い花が、いくつも咲いていて、
まだまだつぼみが残っている。
これが全て咲けば、それは素晴らしい眺めになるだろう。
もっとも2階の窓以外からでは、まともに鑑賞できないのだが。
さて、現在、なんとか無事に4株が育っている。
ひとつはすでにかなり弱っているようだが、まだ枯れてはいない。
果たしてどれくらいのキクイモが、収穫できるのだろうか?