雑学、雑感、切れ味鋭く、思いのままに。

Falx blog 2

植物 歴史 食べ物

高菜

更新日:

数年前からのことになるのだが、
我が家の敷地内に、ミョーな草が生え始めた。

一見した所では、レタスか白菜のような感じなのだが、
結球することは無く、葉は広がったままである。
葉の表面にはわずかにツヤがあり、
葉先の方はレタスと同じように、紫色に染まっている。

一番最初は、何も無い所からポツンと一本だけ生え、
翌年には、2~3カ所から生えてきた。
変わった雑草だなー、と思いながら、
普通に引き抜いて、雑草として処理していたのだが、
去年、ふと思いついて、葉を少しちぎり、口の中に含んでみた。
思わず「ブヘッ!」と、吐き出してしまった。
辛いのである。
塩っ辛いとか、トウガラシの辛さとか、
そういう感じの辛さではなく、
和ガラシとか、マスタードとか、ワサビなどに似た辛さである。
和ガラシに似ていた所から、最初、芥子菜ではないかと考え、
その名前で調べてみたのだが、
問題の草は、芥子菜とは全く姿が異なっていた。
気になったので、さらに調べを進めていくと、
その問題の草が「高菜」であることが、明らかになった。
そう、スーパーなどの漬け物コーナーで売っている「高菜漬け」の、
あの「高菜」である。

「高菜漬け」というのは、わりと身近な漬け物である。
スーパーなどの漬け物コーナーには、
欠かすことの出来ない商品だし、
九州博多ラーメンを食べさせる店では、油で炒めた「高菜漬け」を
ラーメンの薬味として置いている所も多い。
最近では、コンビニのおにぎりのラインナップの中にも、
「高菜漬け」の名前がある。
自分などは、大学時代、九州福岡に住んでいたので、
近くの食堂でも、学食でも、ラーメン屋でも、
頻繁に「高菜漬け」がついてきた。
はっきりいって、福岡に住んでいた九州時代に限っていえば、
沢庵漬けよりも、身近な漬け物であったという記憶がある。

しかし、そこまで身近な「高菜漬け」であったが、
野菜として、生の状態の「高菜」を目にしたことはなかった。
まあ、勝手なイメージとしては、
ホウレンソウのような、小松菜のような、チンゲンサイのような、
とにかくそういった感じの、何の変哲もない葉野菜だろうと、
思い込んでいたのである。
それが、九州を遠く離れた兵庫県の我が家の庭に、
ニョキニョキと生えてきて、自生することになろうとは、
全く予想外なことであった。

高菜は、アブラナ科の越年草である。
葉をかじった際に、和ガラシのような辛さを感じたと書いたが、
それもそのはずで、高菜は芥子菜の変種であり、
両者は非常に近い関係にあったのである。
これと同じ近縁種に小松菜やカツオナなどがある。
20~60㎝ほどの大きさに成長する。
実際、我が家の庭に生えていた「高菜」にしても、
それくらいの大きさであった。
葉や茎は柔らかく、独特の辛みがある。
これはマスタードと同じ、イソチオシアン酸アリルによるもので、
ワサビの辛みとも同一のものである。

原産地は中央アジアで、ここからシルクロードを伝わり、
中国へと伝来した。
日本にも1000年以上昔にもたらされており、
892年に発刊された「新撰字鏡」には
「太加奈(たかな)」と記されており、
928年に発刊された「延喜式」には、
「菘(たかな)」と記されている。
少なくとも、平安時代には日本に入ってきていたようである。
ただ、現在栽培されている「高菜」は、
明治36年に中国・四川省から奈良県に導入されたもので、
幅広で、肉厚な特徴を持つものである。
これが全国へと広がっていき、栽培されるようになった。

「高菜漬け」が全国的に有名なことからも分かるように、
基本的には塩漬けにして、乳酸発酵させたものを食べる。
最近では、浅漬けにして発酵させないものも、
「新高菜漬け」として販売されている。
どちらも細かく刻んで食べられることが多いが、
和歌山県新宮市名物の「めはりずし」のように、
葉を刻まずにおにぎりを包んだものもある。
(ちなみにこの「めはりずし」は、
 「すし」と銘打たれてはいるものの、
 酢飯を使っているわけではなく、
 実際には、ただ「高菜漬け」で巻いたおにぎりである)
和歌山県太地町では、
イルカのすき焼きの中に、「高菜」をそのまま入れることがある。
ただ、これにしても「高菜」の強い辛みを使って、
鯨肉の臭みを抑えるためで、
普通の鍋の具材としての役割というよりは、
薬味としての役割の方が大きいようである。
これ以外にも、西日本の各地では、
生の葉を油で炒めたり、甘辛く炊いたり、汁物の具材として、
家庭料理に使うこともある。

「高菜」には免疫力を高めるビタミンCと、
心筋梗塞や脳梗塞などを予防する働きのある
葉酸が多く含まれており、
それ以外にもミネラルや食物繊維も、バランス良く含まれている。
また、「高菜」独特の辛み成分であるイソチオシアン酸アリルには、
抗がん作用や血栓を予防する働きがあるとされている。
これだけを見ると、積極的に食生活に取り入れていきたい
健康成分を多く含んだ野菜、ということになるのだが、
これを漬け物である「高菜漬け」で食べる、ということになると、
当然、塩分過多ということにもなりかねない。
無論、「高菜漬け」は、生の「高菜」に比べて、
どこでも簡単に入手することが出来るので、
手軽に食べるということであれば、
これを購入するのに勝る方法はないが、
もし、家庭菜園やプランターなどを持っているのなら、
自家栽培にチャレンジしてみるのも、面白いかも知れない。
栽培してみた人の記録を調べてみると、
かなり栽培しやすい野菜の様である。
まあ、どこから種が来たのか、
雑草としてうちの庭に生えてくるくらいだから、
もともと生命力の強い野菜なのかも知れない。

ただ、収穫できた「高菜」を食べるということになった際、
その本命ともいえる「高菜漬け」にするのは、
結構、難しいかも知れない。
先に書いた通り、我々の良く知っている「高菜漬け」は、
乳酸発酵して、あの状態になっているため、
同じものを作ろうと思えば、「高菜」を漬け込み、
これを発酵させる必要がある。
発酵というのは、ある意味、腐敗と紙一重である。
ちゃんと発酵に成功すればいいが、
下手をすれば、「高菜の腐り漬け」になってしまう。
昨年、我が家の庭に自生していた「高菜」を収穫した際も、
最初「高菜漬け」に、と考えていたのだが、
この乳酸発酵を無事に発生させる自信がなく、
結局、普通に塩で浅漬けにして、これを食べた。
市販の「高菜漬け」の、あの味にはならなかったものの、
「高菜」独特のピリ辛味のある、美味しい漬け物になった。
もし、漬け物の腕に自信がない場合は、
こちらの方を試してみても、いいだろう。

さて、今年になって、畑にジャガイモを植え付けたわけだが、
どういうわけか、その一画から「高菜」が何本か生えてきた。
ネットで調べた栽培時期と大きくずれているのだが、
特に問題もなく、日に日に大きくなっている。
あまり季節とか、関係のない植物なのかも知れない。

今年は、一度、失敗覚悟で乳酸発酵の「高菜漬け」に、
チャレンジしてみても、いいかも知れない。

Related Articles:

にほんブログ村 その他生活ブログ 雑学・豆知識へ
にほんブログ村

スポンサーリンク
スポンサーリンク

-植物, 歴史, 食べ物

Copyright© Falx blog 2 , 2024 All Rights Reserved Powered by STINGER.