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えんびフライ

更新日:

えんびフライという言葉に、聞き覚えはないだろうか?

確か自分が子供のころ、国語の教科書に、そんな話が載っていた。

小学校のころの話だか、中学校になってからの話だかは、はっきりしない。

ただ、えんびフライという言葉だけが、やたらと記憶に残っていた。

気になって、インターネットで検索をかけてみた。

見事にヒットした。

三浦哲郎という人の、「盆土産」という話で、

ネットで見る限りでは、

「平成18年度版中学校 国語2」ということになっている。

どうも中学2年生のころの、教科書だったようだ。

平成18年度の教科書にも載っているということは、

恐らく現在も、教科書に載っているのではあるまいか。

話としては、どうということのない話であった。

出稼ぎに出ている父親から、速達がくる。

そこにお土産は「海老フライ」、油とソースを買っておけ、と書いてある。

海老フライがどういうものか、よくわからない主人公。

発音もうまくいかず、「えんびフライ」と言ってしまい、姉に突っ込まれる。

やがて父が帰ってきて、海老フライを食べる。

うまかった。

再び父親が、都会へ出稼ぎに出る。

その際、「さいなら」というつもりが「えんびフライ」と言ってしまい、

父親に苦笑いされる。

こんな話であった。

とにもかくにも、淡々とした話である。

その中で、海老フライを食べる描写がやたらリアルである。

ちょっと書き出してみよう。

「揚げたてのえびフライは、口の中に入れると、しゃおっ、

 というような音をたてた。

 緻密な肉の中で前歯がかすかにきしむような、いい歯ごたえで、

 このあたりでくるみ味といっているえもいわれないうまさが

 口の中に広がった」

こんなものを、昼飯前の4時間目などに読んだら、

それこそ腹の虫が鳴くだろう。

さて、この話、一体いつごろ書かれたのか?

ネットで、三浦哲郎の作品を調べてみたのだが、

そこに「盆土産」のタイトルはなかった。

となると恐らくは、短編集の中の一編で、いつ書かれたのかは特定しにくい。

仮にいつ書かれたのか、特定できたとしても、

その執筆時期と、作品内の時代が一致しているとは限らない。

三浦哲郎の年表を見てみると、1961年より著作を発表し始めている。

「盆土産」の中には、いくつかのキーワードが出てくる。

そこから時代がわからないか?

まず海老フライ、しかもこれは冷凍食品である。

調べてみると、戦後、「加ト吉水産」が1962年に冷凍海老フライを

発売している。

少なくとも、この話の舞台は、これ以降であることは確かだ。

さらに父親は、この冷凍食品を持ち帰るために、ドライアイスを使っている。

調べてみた限りでは、日本でドライアイスが大量生産され始めたのも、

1962年のことなのだ。

海老フライは、冷凍食品になることで、一気に大衆化が進んだ。

そのため、冷凍海老フライが地方にまで普及していなかったということは、

発売されて間もないころだったのではないだろうか?

そうなってくると、時代背景がおぼろげながら見えてくる。

恐らくは冷凍海老フライが発売された、

1962年ごろの話ではないだろうか。

気になることがある。

ソースと油を買っておけ、と手紙に書いてあったことである。

さすがに、1960年代ともなれば、いくら田舎の家庭であったとしても、

ソースぐらいは常備していたのではないだろうか?

さらにいえば、油がないというのも考えられない。

買っておけ、という表現を使っている所を見ると、

田舎とはいえ、買おうと思えば、

いつでも買うことのできる状況だったに違いない。

となると、あくまで父からのメッセージは、

「切らしているようなら、買っておくように」という、警告だったのだろう。

海老フライは、明治時代、魚フライのひとつの亜種として作られた。

明治20年代のことである。

文献を調べてみると、明治時代初頭には、すでに魚のフライはあったが、

そこには海老フライの名前はない。

海老には、フライの前に「天ぷら」という似た料理があったため、

それを元にして、海老フライが作られたと考えられる。

洋食屋の隆盛とともに、海老フライは人気メニューになっていく。

明治39年(1906年)には、「食道楽続編 夏の巻」に

「伊勢エビのカツレツ」が載っている。

このころには、伊勢エビをフライにする試みも、なされていたようである。

海老フライが大衆の間に広がっていったのは、先に書いたように、

冷凍海老フライが作られた、戦後になってからである。

1970年代に入ると、ちょっと面白い事態が起こる。

消費者から「海老フライの衣が厚すぎる」という、クレームが入ったのだ。

1976年の海老フライの生産高は18500tで、

これは全冷凍食品のうち、実に40%を占めていた。

いかに冷凍海老フライが、人気商品であったかがわかる。

その人気商品に対するクレームであっただけに、

この事件は新聞などにも取り上げられた。

「冷凍海老フライ、衣替え論争」として、世間の注目を浴びた。

「衣が厚すぎる」という消費者と、

「衣を薄くすれば、冷凍時に剥がれてしまう」というメーカー。

両者の意見は平行線のまま、農林水産省が介入し、

衣の重さを、それまでの全体の60%から、

50%以下まで落とすことで決着した。

エビの天ぷらなどでは、衣のボリュームというのはあまり問題にならないが、

これが海老フライとなると、国家権力が介入してくる事態となる。

いかに海老フライが、国民に愛されているのかがうかがえる。

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