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時事 植物

竹秋

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先日、たつの市の的場山に登ってきた。

ちょうどこの季節、山は新緑の季節で、
若々しい薄緑の葉が、山一面を覆っている。
ちょっと気温が上がったその日、新緑の作る木陰が
登山道をいい感じで翳らせ、涼しい登山となった。

的場山のもっともメジャーな登山口は、
的場山南側の、「龍野窯」横の登山口だろう。
ちょうど、道路を挟んで小さな駐車場があり、
この登山口を使う登山者たちは、
ほぼ、この駐車場に車を停めて、山に登って行く。
自分と友人も同じように、その駐車場に車を停めて、
登山道を登り始めたのだが、
しばらく歩いていくと、左手斜面に広がっている
竹林の様子が「奇妙」なことに気がついた。
竹の葉も、幹も、一様に黄色いのである。

それは、ちょうど秋に山の木々が紅葉しているような黄色で、
新緑の山中においては、異様に目立っていた。
まるで竹が枯れ始めているようである。
友人と2人、
「ひょっとして、病気なのか?」
と話しながら、その場を後にしたのだが、
その後、山を下りて、車で走っていると、
どうも、あちこちの竹林が黄変してしまっている。
揖保川沿いに、宍粟市の辺りまで北上して行ったのだが、
目についたほとんどの竹林が黄変していた。
と、いうよりは、そこだけが黄色くなっているので、
普通に景色を見ていても、やたらに目につくのである。

そのことが気になったので、家に帰ってから
インターネットで調べてみると、
どうも、この季節に竹が黄色くなるのは、
ごく普通の自然現象で「竹秋(ちくしゅう)」というらしい。
どうして、他の樹木と違い、この季節に変色するのか?

そのきっかけとなっているのは、「タケノコ」らしい。
ちょうど春先のこの季節、竹林ではタケノコが生えてくる。
タケノコは、エネルギーに満ちている。
タケノコが伸長するスピードは、信じられないほど速く、
1日で、最大1mも伸びることがあると言う。
他の樹木で、ここまで強烈な成長を見せるものはない。
そんなタケノコが、竹林のあちこちから、
ニョキニョキと生えてくるのである。
そのために必要になるエネルギーというのは、膨大なもので、
竹林は、タケノコの伸長のためにエネルギーを注ぎ込むため、
葉が黄色く変色してしまうのである。
もちろん、一度黄変してしまった葉が、
再び緑色を取り戻すことはない。
黄変した葉は落葉し、再び新しい葉が生えてくることになる。
つまり、タケノコのシーズンが一段落したこの季節、
竹にとっては、落ち葉のシーズンということになる。
これを「秋」に見立て、「竹秋」と呼んでいるのである。

詰まる所、毎年、この時期に竹は黄色く変色していたのだが、
これに気がついたのが、今年初めてだったということになる。
……。
我ながら、観察力の低さに唖然となる思いだが、
さらによくよく観察してみると、
一部の竹林においては、それほど変色していない竹林もある。
揖保川の河原に生えているような、細い竹や、
それほど規模の大きくない竹林の場合は、
あまり変色していない所もある。
これはどういうことなのか?

細い竹の場合は、竹の種類が違うということも考えられる。
日本でもっとも一般的な竹は「孟宗竹(モウソウチク)」で、
今回、自分が目にしていた、ほとんどの竹林についても、
この「孟宗竹」の竹林だったと考えられるのだが、
河原などに生えている、細く、背丈の低い竹は、
明らかに「孟宗竹」ではないだろう。
種類が違っていれば、
タケノコの出る季節が違っていることもあるだろうし、
タケノコが生えてきても、葉が黄変しないかも知れない。

規模の大きくない竹林の場合、
恐らく、生えてくるタケノコの数も少ないだろう。
そんな竹林から、しっかりとタケノコを収穫すれば、
ほとんどのタケノコを収穫されてしまい、
若竹へと生長できるタケノコの数が、減ってしまう。
そのため、必要になるエネルギーも減ることになり、
それほど葉が黄変することもないのではないだろうか?

もちろん、これらはただの推測に過ぎない。
実際には、自分の思いもよらない理由があるのかも知れない。

ちなみに、この「竹秋」というのは、
俳句の世界でも「春」の季語として、扱われている。
春に生えてきたタケノコが、若い1人前の竹になり、
真新しい葉を茂らせるのは、秋のころになるのだが、
これも俳句の世界では「竹の春」と呼び、
「秋」の季語として、扱われている。
「春」なのに「秋」、「秋」なのに「春」と、
混乱を招きそうな「竹」の季語だが、
それだけ「竹」が、特異な植物である、ということであろうか?

竹が一様に黄色く変色しているのを見たとき、
まず、我々の頭の中に浮かんだのは、
「病気」という単語であった。
意外に、病気に罹っている竹というのは珍しくなく、
竹林をマメに観察していると、
時折、葉が房状にまとまってしまっている竹を
見つけることが出来る。
これなどは「テングス病」と呼ばれる、竹の病気で、
酷いものになると、竹林中に広がってしまっている。
この病気が進むと、やがて葉が落ち、枝も落ち、
ただ、立ち枯れた幹だけが残ることになる。
では、この病気に罹ってしまった竹林をどうすればいいのか?
やることは極めてシンプルで、病状の出ている竹を切り倒し、
燃やしてしまうだけである。
この病気は、胞子によって広がっていくらしいので、
切り倒した竹も、燃やしてしまった方が安全、ということらしい。
かつて、たつの市の天然記念物・片シボ竹も、
このテングス病にかかり、枯死寸前の状態であったが、
罹患した竹を全て取り除いた後、施肥することによって
健康な状態に戻っている。

もうひとつ、竹の異常で有名なものは、
「竹の花の開花」である。
植物の花が咲くのが、何で異常なんだ?と、思われるだろう。
だが、良く思い出してもらえれば、
そういや、竹の花って見たことないなー、と、
思い当たってもらえるだろう。
1つの竹林の中には、若い竹も、年取った竹も、
混じって存在しているが、
花が咲く場合は、これらが一斉に花をつけ、
そしてその後、竹林ごと枯れてしまうのだ。
そんな姿を見れば、竹というのは、
1本2本で独立しているものではなく、
1つの竹林が、1個の生命体なのだと思い知らされる。
竹の花は、60年から120年の間に1度しか咲かず、
咲いた後に、竹林ごと枯死してしまうので、
良くないことの起こる前触れとして、忌諱されることも多い。

新緑の季節の中で目立つ、竹林の秋。
全く、周りの植物と歩調を合わせるつもりのない「ソレ」は、
いっそ、清々しさすら感じさせてくれる。

来年からは、そんな竹の黄変からも、
季節を感じとれるようになりたいものである。

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