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バウムクーヘン

更新日:

「年輪」という言葉がある。

手持ちの国語辞典で調べてみると、

年輪……樹木の横断面に見られる、同心の輪。
    輪の数が樹齢を表す。

と、ある。
つまり1年に1つずつ年輪は増えていくことになる。
これを確認出来るのは、木を伐った後のことになるので、
ある意味、年輪を確認するというのは、
人間でいう所の「検死」に似ていると、いえるかもしれない。
当然、樹齢を重ねている木には、多くの年輪があるし、
まだまだ若い木には、少ない年輪しか刻まれていない。
よく、サバイバルの本などでは、
「方向が分からなくなったら、木を切って年輪を見れば良い。
 陽のあたっている側の年輪の幅は大きく、
 陽のあたっていない側の年輪の幅は小さいので、
 南の方角が分かる」
という風に書いている。
もちろんこの方法は、あくまでも「よく陽のあたっていた」
方角の年輪が大きく育つということなので、
周りの木の生育具合によっても、年輪の育ち方は変わってくる。
一概にどの木を伐っても方向が分かるということにはならない。
この方法を使うときには、
その辺りをよくよく考えておく必要がある。

ともあれ、年輪があるというのは、
それだけ「齢」を重ねてきたという証明でもある。
そう考えると、年輪があるというのは、
「長く過ごす」「長寿」などという意味を持つことになり、
これは「めでたい」ということになる。

この「年輪」を、これでもかというほど意識させるお菓子が、
バウムクーヘンである。

バウムクーヘンといえば、有名なお菓子なので
これを知らないという人も少ないだろう。
中心に穴の開いた、円筒形状のお菓子で、
その断面には「年輪」のような、同心円状の模様が浮き出ている。
ドイツの菓子職人のシンボルとして、
意匠化されるほどのお菓子でありながら、
実際のドイツでは、珍しいお菓子であり、
日本ほど一般的ではないという、
そのスタンスがいまいち分からないお菓子である。
「Baum(バウム)」は「木」、
「Kuchen(クッヘン)」は「お菓子」を表しており、
これを直訳すれば、「木のお菓子」ということになる。
丸太のような円筒形であること、
断面に「年輪」状の模様が入っていることから、
このような名前がついたという説が一般的であるが、
他にも「木」の棒を芯にして焼き上げるので、
「木のお菓子」という名前になったという説もある。
実際に、回転する木の棒を芯にして、
これに生地をかけながら焼いていくという特殊な製法であるため、
普通のオーブンでは作ることが出来ず、
特殊なオーブンが必要になってくる。
そのため、普通の菓子店では作ることが出来ず、
専門店で販売されることが多い。
バウムクーヘンを焼くためのオーブンは、
普通のオーブンのように、箱の中のものを焼くタイプではなく、
一般でいう所の「コンロ」に近い構造になっており、
バウムクーヘンを焼いている間は、この前に立ち続けることになる。
過酷な状況での長時間の作業になるため、
「バウムクーヘン焼きは長生きしない」などともいわれる。
ドイツでは、バウムクーヘンを焼けるようになって、
初めて菓子職人として一人前であると認められるが、
先に書いたような事実があるのであれば、
ドイツの菓子職人というのは、
恐ろしくハードな仕事ということになる。

バウムクーヘンの起源は古く、紀元前にまで遡るといわれる。
中世ポーランド、リトアニア同君連合王国の「シャコティス」が
もとになったとする説や、
「ガトー・ア・ラ・ブロッシュ」が
もとになったとする説などがあるが、
これらの説の原型は「オベリアス」という
紀元前のギリシャで作られていた、パンがもとになっている。
これはパン生地を、木の枝に巻き付けて焼いたものだが、
バウムクーヘンのように、何層もの
年輪構造にはなっていないようである。
この「オベリアス」は、現在も作られ続けており、
稀ではあるが、日本のベーカリーでも見かけることが出来る。
15世紀ごろになると、生地の中に卵や蜂蜜を加えるようになり、
18世紀ごろには、現在のものと変わらないものが
作られるようになった。

バウムクーヘンが日本に伝えられたのは、
第1次世界大戦後のことで、
中国大陸から戦争捕虜として日本へ抑留された、
ドイツ菓子職人カール・ユーハイムによってである。
彼は広島物産陳列館(現・原爆ドーム)で行なわれた、
ドイツ人捕虜の作品展示即売会でバウムクーヘンを販売した。
このころは「バウムクーヘン」という名前ではなく、
「ピラミッドケーキ」という名前であった。
これが日本人に受け、後に彼は銀座の洋食屋の
製菓主任として迎えられた。
彼は1922年に横浜に自分の店を出すが、
翌年に起こった関東大震災で店が焼失したため、
今度は神戸へと移り、再び店を開いた。
これが神戸の老舗洋菓子店「ユーハイム」の始まりとなる。

バウムクーヘンの年輪状の模様から、
日本ではめでたい慶事の贈り物として好まれるようになり、
結婚式や祝い事の引き出物として、使われることが多い。
日本人の、何にでも縁起の良さを求める国民性が、
バウムクーヘンの年輪模様をドイツ以上に尊ぶ結果を生み、
今日の状況を生み出した。

現在のドイツで、バウムクーヘンが
それほどメジャーなお菓子でないことを考えると、
遠く離れた日本の地で、これが慶事のお菓子として
もてはやされていることは、
第1次世界大戦後の偶然が生んだ、
ちょっとした奇跡かも知れない。

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