和菓子の本体は、アンコである。
ここまで言い切ってしまうと、和菓子好きの人から、
いろいろと文句を言われそうだが、なるほどと納得する人も多いだろう。
それほどまでに、和菓子においてアンコの存在感は大きい。
そのアンコを、これでもかというほど味わえるお菓子が、「きんつば」だ。
今回は、この「きんつば」について書いていく。
さて、改めて「きんつば」と言ってみても、これを知らない人も、
多いのではないだろうか?
「きんつば」とは、アンコを固めたものを四角形に切り出し、
それぞれの面に、水で緩く溶いた小麦粉をつけて、鉄板の上で焼いたものである。
都合、6回ほどこの行程を繰り返せば、「きんつば」は完成する。
パッと見た感じは、四角い薄皮饅頭である。
ただ薄皮饅頭と違うのは、皮が蒸されずに焼かれているので、
饅頭のしっとりとした質感とは違い、さらりと乾いた質感になっている。
味わいは、もう100%アンコの味わいといって良い。
申し訳程度に、薄い皮がついているが、味わいの主役はアンコである。
皮は、「きんつば」を手で持ちやすくするためだけに、あるようなもので、
これでもかとアンコを楽しむのが、正しい楽しみ方だ。
「きんつば」が初めて作られたのは、江戸時代中期の京都である。
当時のものは、小麦粉の生地ではなく、上新粉を使った生地でアンコを包み、
鉄板の上で焼いたものであった。
その形は、むしろ焼き饅頭に近い。
形も現在の立方体型ではなく、円盤状であった。
当時は「きんつば」ではなく、「ぎんつば」と呼ばれていた。
たしかに上新粉を使った生地の色は、銀色に近い。
「つば」というのは、刀の鍔のことであり、
その形状が刀の鍔に似ていた所から、この名前が付けられた。
これが江戸に伝わり、「銀」よりも「金」のほうが景気がいいという理由から、
「きんつば」と名前が変更された。
この円盤状の「きんつば」は、まだ地方の和菓子屋などで、
細々と生き残っている。
明治時代になり、現在の四角形六方焼きの「きんつば」が作られた。
発案者は、神戸元町・「紅花堂」の創業者、杉田太吉であるとされている。
現在では、立方体型の「きんつば」が圧倒的に多いが、
中には、先に書いた円盤形や、三角形の「きんつば」もある。
「きんつば」は、コンビニなどでは扱っていない店もあるが、
スーパーの和菓子売り場などでは、隅っこの方で、申し訳なさそうに並んでいる。
これを申し訳なさそうにカゴに放り込み、申し訳なさそうにレジに持っていく。
特に、いい歳した男が購入するとなると、世間の目が厳しいような気がする。
そのままレジ袋に放り込み、逃げるように帰宅する。
帰宅した後、真っ先にレジ袋に手を突っ込み、
かき分けるようにして「きんつば」を取り出す。
そして、そのまま袋を破り、とりだした「きんつば」にかぶりつく。
もちろんレジ袋の中には、他の購入物が入ったままである。
パク、パクとふた口くらいで完食してしまう。
口の中に広がる、濃厚なアンコの甘味。
一緒に購入していた、ペットボトルのお茶を開封し、一口ごくり。
そこで一息ついてから、ようやく買ってきたものの、片付けをはじめる。
なんともお行儀の悪い食べ方だが、
そういう食べ方をする「きんつば」は、本当にウマい。