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By: ume-y

今年の夏は、各地で鮫の目撃情報が相次いだ。

茨城県の海水浴場に現れたのを皮切りに、
千葉、神奈川、静岡、愛知、鹿児島などで、
鮫の目撃情報が相次ぎ、近辺の海水浴場では
遊泳禁止の措置をとることも多かった。
そのため、この時期に書き入れ時となる海の家などでは、
全く海水浴客が来れなくなったため、客が激減し、
悲鳴を上げた所も相当数あった。

今年のこの頻繁な鮫の出没は、
地球温暖化の影響だとか、
台風によってエサになる魚が
日本近海へと北上したためだともいわれているが、
本当の所はよく分かっていない。
地球温暖化が叫ばれる以前にも、
鮫が日本近海で目撃されることはあったし、
潜水夫が鮫に襲われて命を落とす事故も起こっている。
歴史的に見ても、
子供を鮫に襲われた親が、子供の死体をエサに
鮫をおびき寄せ、子の仇を討つ昔話などが残っている。
(かなりエグイ話だが……)
これなどは、はるか過去の時代にも
鮫による人的な被害が出ていたことを表すものだろう。

海で漁業をしている人たちからしてみれば、
鮫が網にかかるというのは日常茶飯事のことで、
それらの鮫をすり身にして蒲鉾の材料にしたり、
鮫が腐りにくいという特徴を生かし、
生の海水魚の手に入りにくい内地へ販売したりしていた。
広島県や栃木県などでは、
そういった鮫を使った料理が名物となり、
現在まで1つの食文化として残っている。

鮫は、軟骨魚網板鰓亜網に属する魚類のうち、
鰓裂が身体の側面についているものの総称である。
……。
なんともわかりにくい説明だが、それもその筈で、
鮫の種類は実に500種以上に及び、
大きさ、形状、性質、生息場所などが
種によって様々に違っており、
一概に「これ」という定義をしにくいのである。
そんな中で、無理矢理定義したのが上記のものである。
鮫の中には海のみならず、淡水域に棲息しているものもあるし、
魚や海棲ほ乳類を襲う肉食の鮫もいれば、
プランクトンなどを食べる、比較的おとなしい鮫もいる。
14mにもなる巨大な鮫もいるし、
22㎝ほどにしかならない、小型の鮫もいる。
ホオジロザメのように流線型の身体をしている鮫もいれば、
エイと見まがうような、平べったい身体をした鮫もいる。
「鮫」という1つの括りでまとめてしまうには、
余りにも多種多様な特徴がある。
そんな中で、共通しているのが「浮袋」が無いということだろう。
普通の魚は体内に「浮袋」を持っており、
これを使って水の中で浮力を調節し、水中で高度を維持している。
しかし鮫にはこの「浮袋」がなく、
放っておいたら、どんどんと下へと沈んでいく。
これを防ぐために、鮫は泳ぎながら「揚力」を得ている。
鮫の尾ビレを見てみれば、
上側の方が下側よりも大きく発達している。
この尾ビレを左右に振れば、後部下方に向けた水流が発生し、
鮫の身体を前に進ませるとともに、
上方へ持ち上げようとする力が発生する。
さらに胸びれを飛行機の主翼のように調整し、
推進力の一部を「揚力」に変換することによって
鮫は水中での高度を維持しているのである。
じゃあ、鮫というのはずっと泳いでいるの?と思うだろうが、
実際に鮫はずっと泳いでいるのである。
マグロなどは鰓の構造上、
泳いでいなければ呼吸が出来なくなるが、
鮫は身体の構造上、泳いでいなければ
どんどんと沈んでいってしまうのである。
まるで土左衛門のようだが、
鮫の場合は沈むだけで呼吸は出来るため、
窒息死してしまうようなことは無い。

我々が「鮫」というと、
まず何よりも「人食いザメ」をイメージしてしまうが、
500種もいる鮫の中で、
人に危害を加える恐れのある種は20〜30種ほどである。
鮫の大半は、人間を襲ったりしない安全な鮫なのである。
これが「鮫」=「人食いザメ」のようなイメージになったのは、
「ジョーズ」などに代表される、
「人食いザメ映画」の影響が大きい。
巨大なホオジロザメが、海水浴を楽しんでいる人間に近づき、
水中へと引きずり込み、一口のもとに食い殺してしまう。
一緒に泳いでいた人たちは、鮫が現れたことにも気付かず、
水中では次の獲物を鮫が見定めている。
やがて人々は凶悪な人食いザメの存在に気がつき、
パニックになりながら陸へと駆け上がる。
そんなパニックの中で、また1人、
鮫に襲われ水の中へと消えていき、水面は血で赤く染まる。
「ジョーズ」の大ヒットによって、
こういう「人食いザメ映画」は怪しいものも含めて、
かなりの数が作られた。
これらが映画館で上映され、
あるいはテレビで放映されることにより、
人々の頭の中に「鮫」=「人食いザメ」という図式が
出来上がった。

しかし、実際の話、鮫が人を食べるよりも
人が鮫を食べることの方が多いのである。
先にも書いたように、鮫の肉はすり身にされ、
蒲鉾やはんぺんなどの魚肉製品に加工される他にも、
「タレ」と呼ばれる干物に加工されることもある。
鮫の体内には「尿素」が蓄積されており、
時間の経過とともにこれが「アンモニア」に変わっていくため、
「鮫」=「臭い」というイメージを持たれることもあるのだが、
実は鮫が腐りにくいのは、
この「アンモニア」があるためである。
これを避けるには、「アンモニア」が発生する前、
新鮮なうちに食べるか、
「尿素」の蓄積の少ない、子供の鮫を食べるしかない。
貝塚から鮫の歯が出土していることから、
古代より、日本人が鮫を食べていたことがわかる。
冷蔵庫や冷凍庫の無い時代、
常温でも腐りにくい鮫の肉は、貴重だったに違いない。
それを裏付けているのが、伊勢神宮の神饌として
干鮫が供えられていることである。
干してしまえば、どのような魚でも運搬保存出来る筈だが、
そんな中でも、神への供え物として
「鮫」が選ばれたということは、
「鮫」そのものに価値が認められていた証拠であろう。
現在では、中華料理の「フカヒレ」以外、
ほとんど価値がないように思われている「鮫」だが、
かつて「鮫」には、神に捧げるほどの価値があったのである。

さて、今年は日本近海に大量に出没した鮫だが、
世界的に見れば、その数は減少し、絶滅が危惧されている。
あの「ジョーズ」で恐れられたホオジロザメでさえ、
世界の多くの国では保護の対象となっているのである。
これは、食材としてその需要が高まっているのと、
鮫自身、生態系の頂点に立つ生物のため、
それほど多くの子供を作らないためだ。

現在でこそ、鮫は海水浴客を遠ざける厄介者の扱いだが、
そのうち、鮫が絶滅寸前、なんていうことになれば、
かえって「鮫ウオッチング」をしようという人たちが、
大挙して海水浴場に押し寄せる、
なんていう時代になるのかも知れない。

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