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胡椒〜その1

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子供のころ、大人気だったゲームに
「ドラゴンクエスト3」がある。
このゲームが発売された当時、
自分は中学生か高校生くらいだったのだが、
当時の子供たちは、それこそ寝る間も惜しむようにして、
このゲームに夢中になった。

この「ドラゴンクエスト3」の大きな特徴の1つが、
その冒険を繰り広げる世界が、
我々の住んでいる現実世界をモデルにしたものだったことだ。
主人公は「アリアハン」という、
現実世界でいう所のオーストラリア出身の勇者で、
ここを皮切りに、世界中を冒険して回ることになる。
オーストラリアからイタリアまでは、
「旅の扉」というワープ装置で移動出来るのだが、
それ以降は基本的に「歩き」で世界を旅することになる。
ヨーロッパ、中東、エジプトを歩き回った後、
イベリア半島にある国で、
「船」を手に入れるイベントが起こる。
王様が「くろこしょう」を手に入れてくれば
「船」をくれるという。
主人公たちは「くろこしょう」を手に入れるため、
陸路を東へ向かい、インドを目指すことになる。
「船」を手に入れる場所が、大航海時代の主役であった
スペイン・ポルトガルのあるイベリア半島の国であることや、
「船」を手に入れるのに、胡椒が関係してくる所など、
うまく世界の歴史にリンクしていた。

しかし、当時の子供たち、特に小学生や中学生たちは、
「なんで、胡椒なんかで船をくれるんだ?」
という疑問を持っていたのではないか?
現在の子供たちにとって「胡椒」というのは、
どこのスーパーでも売っている、
当たり前の香辛料に過ぎない。
値段も、安いものなら1瓶100〜200円程度で買えるだろう。
仮にも1国の王が、勇者に頼んで手に入れてもらおうとする
アイテムとは思えない。
ましてや、胡椒と引き換えに「船」をくれるということになると、
むしろ、あまりの上手い話に胡散臭さを感じるか、
王様がアホなのではないかと疑う所だろう。

だが、実際の所、人間の歴史の中で、
胡椒が安価に手に入るようになったのは、
ここ400年ほどのことである。
それ以前の人類の歴史では、
胡椒のひと粒は、黄金のひと粒といわれたり、
胡椒を求める過程で、大規模な戦争が起こったり、
胡椒を求めるあまり、大航海時代が始まったり、
その過程で新大陸が発見されたりしたのである。
現在では、スーパーの棚で
1瓶100円ほどで売られている香辛料は、
人々を動かし、歴史を作る原動力にもなったのである。

胡椒は、コショウ目コショウ科コショウ属に属する、
多年生のつる植物である。
この植物がつける小さな果実が、
我々が日常的に使用している「胡椒」となる。

胡椒は2500〜3000年もの歴史を持っている。
原産地はインドの南西、マラバル地方である。
このころに書かれたインドの聖典にも、
その名前が登場していることから、
すでにこの時代には、胡椒を使うことは
一般的なことになっていたようである。
胡椒はほどなく、陸路を経てヨーロッパへと伝えられる。
当初は、現在のような食品・香辛料としてではなく、
薬品の一種として扱われていたようで、
紀元前5世紀ごろに書かれた書物の中でも
「胡椒と酢と蜂蜜を混ぜたものは、婦人病に効く」
と、書かれている。
だが、やがてその「味」が注目され、
食用に用いられるようになり、
以降、2000年間、「香辛料の王」として君臨し続けている。

胡椒は、収穫の時期や、加工法の違いによって
大きく4つに分けられる。
まず、「ドラゴンクエスト3」で登場した「黒胡椒」。
これは熟す前に収穫した胡椒を、
長時間かけて乾燥させたものである。
香りも辛みも強いのが特徴だ。
次に「白胡椒」。
完熟させた実の皮を剥き、乾燥させたものである。
黒胡椒よりは風味が弱く、一般的に薬用として使われるのは
この白胡椒である。
次に「青胡椒」。
グリーンペッパーとも呼ばれる青胡椒は、
未熟な実をフリーズドライなどの方法で
急速乾燥させたものである。
マイルドな香りと辛さが得られる。
これは最近になって作られたものである。
最後に「赤胡椒」。
別名ピンクペッパーとも呼ばれるこれは、
赤く完熟した実を、そのまま塩漬けにしたものである。
コショウボクの実や、西洋ナナカマドの実を
ピンクペッパーと呼ぶこともあるが、
これらは正確に言えば胡椒ではない。
歴史の中で扱われてきたのは、「黒胡椒」と「白胡椒」である。
しっかりと乾燥させてあるため、保存性がよく、
重量も減っているために、長距離の輸送に向いていた。

胡椒がもっとも活躍した時代は、古代ローマ時代である。
このころには通常の料理の他に、
ワインや魚醤などにも胡椒を混ぜて使っていた。
ここまでになると、やや狂気を含んでいるようにも思えるが、
現代においても、どんなものにでもマヨネーズをかける
「マヨラー」なる人種が一定数存在していることを考えると、
どんな時代にも、「その手」の人間がいたということだろう。
ローマの気候では、胡椒を栽培することが出来ず、
インドからの輸入品に頼るしかなかったため、
胡椒は常に高額で取引されていた。
そのため、胡椒をどれだけ保有しているかということは、
そのまま自らの権勢を示すことにもなった。
当時のローマでは、320gの長胡椒が1万円、
白胡椒が5千円、黒胡椒が3千円したという。
もっとも安い黒胡椒でも、
100g1000円近くしていたことになる。
先に書いたように、胡椒のひと粒は黄金のひと粒、
なんてことをいわれたとされるのは、このころのことである。

さて、気の回る人なら、ここでおかしな単語が出てきたことに
気付いていることだろう。
そう、「長胡椒」である。
価格だけで見てみれば、もっとも高額な値段が付けられているが、
そもそも「長胡椒」とは一体何なのか?
実は、この「長胡椒」は、胡椒と同じコショウ科の植物で、
正式な名前をヒハツという。
胡椒と似た風味を持っており、
同じようにスパイスとして用いられる。
ヒハツの実は胡椒とは違い、細長い形状をしていたため、
「長胡椒」と呼ばれていたが、
実際には胡椒の木から採れるわけではない。
ただ、この「ヒハツ」、胡椒に大きな影響を与えており、
胡椒の英名「ペッパー」は、
この「ヒハツ」が変じたものだとされる。
先に書いた通り、当初は黒・白胡椒よりも高額で扱われていたが、
12世紀ごろから黒胡椒と競合するようになり、
14世紀ごろには完全に姿を消してしまった。
「胡椒」の英名が、「胡椒」ではないものの名前から
来ていたというのも驚きだが、
かつて「胡椒」より人気のあった「ヒハツ」が、
現在ではごく限られた地域でしか使われていないというのも、
時代の流れというものを感じさせてくれる。

さて、今回は「胡椒」の黎明期から、
「ペッパー」の語源となった
「長胡椒」の衰退までの流れを追ってみた。
次回は、「長胡椒」が衰退した後、
「胡椒」がどのような歴史をたどったのかを書いていく。

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