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ゴーヤ

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あれは、自分が大学に合格し、福岡へ行ったばかりのころ。
同級生たちと大挙して、飲み屋へ繰り出したことがあった。

ちなみに大学に入学したばかりなのだから、
全員未成年である。
中には何年も留年して、二十歳を超えている同級生もいたが、
全体のほぼ9割が未成年でありながら、
これらが何の疑いもなく飲み屋に入っていく辺りが、
当時の世相だったのか、
それとも九州という土地柄だったのかはわからない。
いずれにしても、福岡の大学だったので
生徒のうちの8割ほどは九州出身者で、
そんな中での飲み会は、九州各地の方便が入り混じる
凄まじいものであった。
もちろん、酒についても凄まじく、
男女ともに結構強そうな酒をバンバン飲むという、
九州人の凄まじさを思い知らされたものだ。
ちなみに当時の自分は下戸に近く、
わずかな酒量で正気を失うという、酒乱の気も強かった。
(それまで、ほとんど飲むこともなかったわけだから、
 酒に弱いのは当然といえば、当然だが……)

そんな飲み会の中で、こんな話題が出た。
「苦手な食べ物は何か?」
実になんてことのない話題だ。
人間、食べ物の好き嫌いなんて誰でもあるものだし、
飲み会での話のとっかかりとしては、平凡なものだ。
が、ここで驚いたのが、九州出身者のほとんどが、
「ニガウリが苦手」と答えたことである。
話を聞いている限りでは、
親は「ニガウリ」が好きで、健康にも良いからと
子供に食べさせようとするのだが、
なんといっても「苦み」が強いだけに、
これが大嫌いだという意見が多かった。
なるほど、ピーマンなどを見ても分かるように、
子供は「辛い」ものや「苦い」ものを嫌がる。
これは子供の味覚が鋭敏なため、
「辛さ」や「苦さ」を強く感じるからで、
大人になればその鋭敏さが無くなるため、
「辛い」ものや「苦い」ものも、食べれるようになるという。
大人の味覚に合わせて、
苦いものを無理矢理食べさせられていたのなら、
子供がこれを嫌いになるのも無理はない。

が、これはあくまで現在の自分だからいえることである。
当時の自分にとって、「ニガウリ」というのは
全く未知の食材であり、
どんなものなのか、さっぱりイメージできなかったのである。
言葉の響きから察するに、「苦い」味のする「瓜」だろうな、
ということくらいは想像できるのだが、
自分の知っている「瓜」というのは、
婆さんがたまに作っていた「マクワウリ」くらいで、
(ちなみに婆さんは「メロン」と言い切っていた。
 たしかに西播地方では「マクワウリ」のことを
 「網干メロン」と呼ぶこともある。
 婆さんはこれを略して「メロン」と呼んでいたのだろう)
これが「苦い」というのは、想像し辛かったのである。
これは、自分と同じ、非九州出身者共通の認識だったらしく、
そのほとんどはこの時初めて、
「ニガウリ」なる食べ物があることを知ったのである。

この「ニガウリ」、この名前のままだと
何のことだかよくわからないという人もいるだろう。
しかし「ゴーヤ」という名前だと、
ああ、あれかという人も多いのではないだろうか?
ここ最近では、スーパーの青果売り場でも
お馴染みになっている、表面のブツブツが特徴的なアレである。
調理法は様々あるようだが、その中でも有名なのが、
沖縄の郷土料理「ゴーヤチャンプル」だろう。
ゴーヤ、豚肉、豆腐などを炒め、溶き卵を絡めたこの料理が
「ゴーヤ」の名前を広めたといっていい。
スーパーなどの青果売り場で、「ニガウリ」と表示されず、
「ゴーヤ」と表示されていることからも、
この沖縄料理の影響の強さが伺える。

ゴーヤは、ウリ科ツルレイシ属に属する、
つる性の1年生草本である。
先に書いた通り、「ゴーヤ」という呼ばれ方の他に、
「ニガウリ」「ツルレイシ」などとも呼ばれる。
この後は「ゴーヤ」で統一して書いていくが、
正式な名称としては「ツルレイシ」が正しいようである。
丈夫で栽培がしやすいため、
太陽の照りつける家の南面に網などを張り、
それに這わせるようにして育てることによって、
ゴーヤに「日よけ」の役目を持たせる、
「緑のカーテン」としても、利用されることがある。
同じつる性の植物でも、朝顔と違い、
ゴーヤの果実が収穫できることから、
一石二鳥のやり方といえる。
果実が緑のうちに収穫し、これを食用とするのが常だが、
実は緑色の果実は、まだ未熟な状態である。
この緑色も陽光に当たることによって強くなるので、
逆に太陽光の当たらない所で育てれば、
色の薄いゴーヤが出来上がる。
緑色のゴーヤを収穫せず、そのまま放置していると、
果実はやがて黄色く熟し、裂開して種を蒔き散らすことになる。
我々が食べるゴーヤだと、タネの入っている中央部分は未熟で、
スプーンなどでガリガリと取り除いて捨てるだけだが、
完熟後にはタネは赤いゼリー状の皮に覆われ、
甘さを持つようになる。
これは、派手な色と甘さによって鳥たちを誘引し、
タネを運ばせるためである。

原産地はインドを中心とする東南アジアで、
それが14世紀末に中国に伝わり、
日本へは慶長年間(1596〜1615年)に
伝わったとされている。
沖縄に伝わったのは、いつごろのことなのか
はっきりとしないが、
1713年に書かれた「琉球国由来記」に
「ゴーヤ」についての記述があることから、
そのころには伝わっていたらしい。
沖縄には、中国の「医食同源」という思想が
伝えられており、ゴーヤについても
「夏バテ予防」のために食べられていたようである。
長らく、九州・沖縄地区のみで食されていたゴーヤだが、
2001年から放送されたNHKドラマの影響によって、
全国的に知られるようになった。
近年では「夏バテ防止」効果だけでなく、
「ダイエット」効果にも注目が集まっている。

「ゴーヤ」という名前の由来については、
方言の「マガヤー」(曲がっているもの)からきているという説、
中国名の「苦瓜(クーグァー)」が変じたという説、
最初に栽培した人物の名前、
「胡屋(ゴヤ)」からきているという説など、様々である。
「ニガウリ」については、中国名「苦瓜」の日本語呼び、
「ツルレイシ」については、
イボに覆われた実が、レイシ(ライチ)に似ているため
つる性のレイシということになった。
また「ゴーヤ」にしても、「ゴーヤー」と伸ばしたり、
「ゴーラ」と呼んだりもする。
狭い沖縄地方においても、呼び方は一定していない。

さて、かつては九州出身者の同級生たちに、
忌み嫌われていた「ニガウリ(ゴーヤ)」だが、
その後、あれよあれよという間に、
全国区で食べられる人、気野菜の地位を手に入れた。

かつての同級生たちは、「ゴーヤ」の目くるめく躍進を
どのような気持ちで眺めていたのだろうか?

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