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ナス

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By: nubobo

どうやら世間では、ナスビのことをナスと呼んでいるらしい。

インターネットの画像検索で「なすび」と入力すれば、
懸賞生活で有名な、顔の長いお笑い芸人の写真が出てくる。
これをカタカナで「ナスビ」とすれば、
野菜のナスと、お笑い芸人が半々で出てきて、
「なす」「ナス」と入力すれば、
画面一杯に、紫色のツヤツヤした野菜が表示されることになる。

自分が子供のころ、ナスはナスビであった。
おかしなことを言っていると思われるかも知れないが、
母親も婆さんも「ナス」のことを「ナスビ」と
呼んでいたように思う。
それがあまりに自然だったので、子供のころの自分は
ごく当たり前に「ナスビ」が正式な名前で、
それを省略した呼び方が「ナス」なのだと思っていた。

ところが調べてみると、先に書いた通り、
世間的には「ナス」というのが一般的な呼称で、
「ナスビ」というのは、かなり古い呼び方であるということが
明らかになった。
現在、「ナスビ」という呼び方が残っているのは、
西日本地方だけであるらしい。
うちの母親と婆さんが「ナスビ」呼びをしていたのは、
多分に地域性によるものだったらしい。
(もともと婆さんの出身は新潟県なので、
 「ナス」呼び地域出身の筈なのだが、
 どういうわけか婆さんは「ナスビ」と呼んでいた。
 ひょっとしたら、長く関西に住むうちに
 こちらの「ナスビ」呼びに適応してしまったのかも知れない)
そういう親に育てられたものだから、
自分も基本的に「ナスビ」呼びをする人間である。

ただ、ひとつ疑問に思うことがある。
「一富士、二鷹、三茄子」という言葉がある。
この読みは
「いちふじ、にたか、さん「なすび」」である。
決して「さん「なす」」ではない。
仮にこれを「なすび」ではなく、「なす」に読み替えてみると、
「いちふじ、にたか、さんなす」となり、
なんともテンポの悪いことになる。
この「一富士、二鷹、三茄子」という言葉は、
江戸時代の初期には出来上がっていたようで、
その由来を調べてみると、徳川家に関する説がいくつかあった。
徳川家に由来していると考えれば、
東海地方から関東地方にかけての地域で、
この言葉が誕生したと考えるしかなく、
そういう風に考えた場合、少なくとも江戸時代には
東日本においても「なす」呼びではなく、
「なすび」呼びをしていたと考えられる。
これがいつぐらいから「なす」呼びになったのか、
はっきりしたことはわからないが、
江戸時代初期には全国的に「なすび」呼びだったものが、
どういうわけかそれ以降、東日本では「なす」呼びが主流となり、
「なすび」呼びは、諺の中でのみ
生き延びることになったようである。

ナスは、ナス科ナス属に属する植物である。
また、この植物になる果実を、そう呼ぶこともある。
日本では「ナス」といえば、濃い紫色というイメージがあるが、
ヨーロッパやアメリカの品種には、
白、黄緑、薄い紫色、さらに縞模様など、
様々なカラーパターンのナスが存在している。
ナスの種類は多く、国内だけでも180種類、
全世界的には1000種類ものナスが存在している。
基本的には北に行けば行くほど、ナスは丸くなる傾向があり、
同じように南に行けば行くほど、ナスは細長くなるとされる。
皮が紫色をしているのは、
皮にアントシアニンの一種・ナスニンが含まれているからである。
悪ふざけしているような名前だが、
このナスニンは抗酸化作用を持ち合わせており、
それなりの健康効果があるところが面白い。
ナスのその独特の濃い紫色を「なす紺」と言い表すこともある。

原産国はインドで、その後、
ビルマ、中国を経て日本に入ってきた。
いつごろ日本に入ってきたか、
はっきりとしたことはわからないが、
平城京の長屋王邸宅跡から発見された木簡には

「加須津韓奈須比(かすづけなすび)」

と書かれているものが見つかっており、
正倉院文書にも

「天平6年(734年)、茄子十一斛、直一貫三百五十六文」

と記された文書が見つかっていることから、
奈良時代には、すでに日本に入ってきていたようである。
ナスの言葉の由来は、
実の味から「中酸実(なかすみ)」が、
「なすび」になったという説、
夏に実をつけることから「夏の実(なつのみ)」が、
「なすび」になったという説がある。
すくなくとも語源をたどっていけば、
「ナス」がもともと「ナスビ」であったことが伺える。
「ナスビ」が「ナス」に変わったのは、
室町時代のことらしく、「ナス」というのは、
一種の女房言葉で、これが広まっていったものらしい。
料理番組などを見ていると、年配の女性の中に
「ナス」を「おナス」と呼んでいる人を見かけることがあるが、
これなどは女房言葉の残滓のようなものだろうか?
皇族の邸宅跡から、ナスについて書かれた木簡が
見つかっていることからもわかるように、
元々はかなりの高級食材であったらしい。
これが広く栽培され、
一般庶民の間に出回るようになっていくのは
江戸時代以降のことになる。
「秋ナスは嫁に食わすな」という、
嫁をいじめているのか、大切にしているのか
よくわからない諺も、
ナスが一般的になった、江戸時代以降に作られたものだろう。
この諺の中に出てくる「秋ナス」というのは、
そういう名前の品種のことではなく、
実付きの悪くなったナスの木を、お盆の時期くらいに
半分くらいの高さの位置で剪定し、
そこから生えてきた新芽によって、結実したものである。
イメージ的には「2番ナス」とでも言った方が正しいのだが、
とても味の良いナスが出来ることから、
「秋ナス」と呼称されている。
確かに味の良い「秋ナス」は採れるものの、
いちいちナスの木を剪定しなければならない手間と、
以降の農作物の栽培時期にずれ込み、栽培計画を狂わせるので、
この剪定を行なわず、「秋ナス」を作らないことも多い。

ナスには様々な調理法がある。
焼く、煮る、蒸す、揚げる、炒める、漬けるなど、
ありとあらゆる調理法に対応しているといってもいい。
しかし、そんなナスの唯一の泣き所は、
生食できない所である。
(漬け物などは、ある意味で生食ともいえるが……)
ナスにはアクが多く含まれ、
これを何らかの方法で除去しない限りは、
上手く調理することが出来ない。
(漬け物などは、塩の力を借りてアク抜きをしているのである)

一度、ものは試しと、細かく切ったナスをマヨネーズで和え、
簡易的なサラダを作ってみたことがあるが、
なんともマズいサラダになってしまった。

やはりナスの生食は、避けた方が良いようである。

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