雑学、雑感、切れ味鋭く、思いのままに。

Falx blog 2

歴史 特撮、テレビ 雑感、考察

NHKドラマ 「かぶき者 慶次」

更新日:

かつて、「前田慶次」といえば、全く無名の存在だった。

彼を知っている人間というのは、ごく一部の人間のみであり、
一般人に対して、「前田慶次って、知ってる?」と聞いても、
99%の人が「知らない」と答えるような、無名の人物だった。

そういう状態が一変するきっかけになったのが、
隆慶一郎による時代小説「一夢庵風流記」だ。
もちろん、それ以前にも前田慶次を取り扱った
時代小説はあったのだが、
現在のように、一般人の多くが
「前田慶次」を「天下のかぶき者」という
認識を持つようになったのは、
この「一夢庵風流記」を漫画化した
「花の慶次 雲のかなたに」が、
週刊少年ジャンプに連載されて以降のことだろう。
当時、空前の発行部数を誇っていた
この少年マンガ雑誌の中でも、
「花の慶次」は一種、異様な雰囲気があった。
あまりにも豪快で、痛快な主人公・前田慶次のキャラクター、
次々に登場してくる、有名戦国武将たち。
それらを「北斗の拳」の原哲夫が、
緻密かつ、ダイナミックなタッチで描いたのだから、
当時、わりと軽いタッチの作品の増えつつあった
週刊少年ジャンプの中でも異彩を放つ作品に仕上がっていた。
さらに前田慶次を主人公とした「一夢庵風流記」を、
物語のベースとしながらも、
他の隆慶一郎作品の要素をふんだんに取り入れたこの作品は、
原作「一夢庵風流記」とはひと味違った魅力を持つ、
独特の作品に仕上がっていた。

この「花の慶次 雲のかなたに」は、
週刊少年ジャンプ誌上において、3年以上連載され、
無事に大団円を迎えた。
連載終了後も、アニメ化こそされなかったものの、
各種ゲーム化、パチンコ・パチスロ化され、
現在まで続く、息の長いコンテンツとなっている。
マンガを描いていた原哲夫も、この作品以降、
歴史物を描くのに目覚めたのか、数多くの歴史作品を執筆した。
また、戦国時代を扱ったアニメ、マンガ、ゲームなどには、
この「花の慶次」以降、キャラクターとして前田慶次が
登場してくることが多くなった。
そのキャラクターイメージは、
どれも「花の慶次」を踏襲したものになっており、
いかに「一夢庵風流記」と「花の慶次」が
これらに影響を与えたのかが伺える。

この「花の慶次」も、「一夢庵風流記」も、
慶次が米沢へ旅立つ所で終わっている。
(後日談的なものは語られているが……)
前田慶次の米沢以降の物語については、
「以降、かぶくことはなかった」ですまされているが、
前田慶次について調べてみると、
どうやら彼は、米沢に移住した後も、
それなりに「かぶいて」いたらしい。
かぶくことはなかった、としたのは、
あくまでもそうした方が、
物語としてのキリがいいからであろう。
「花の慶次」のラストの記述を信じるのであれば、
物語のラストから、さらに12年も生きたとある。
となれば、そこから後の部分にも、
それなりの物語があったのかも知れない。

NHKの木曜時代劇「かぶき者 慶次」は、
まさに「そこ」の所を描いたドラマである。

関ヶ原の戦い以降、米沢に転封になった上杉家とともに、
彼の地へと住み着いた前田慶次。
米沢で、慶次は息子である新九郎を育てているが、
その新九郎には、ある秘密があった。
関ヶ原の合戦において
敗軍の将となった西軍大将・石田三成の息子だったのである。
その事実を隠し、新九郎を自分の息子として育てる慶次。
だが、上杉家取り潰しを狙う徳川幕府の一派が、
石田三成の息子を捜し出そうと暗躍を始める。
米沢で安穏の生活を送る前田慶次親子の前に、
危機が迫っていた……。

というのが、大雑把なストーリーである。
このストーリーを軸に、上杉家内の対立、
かつて捨ててきた前田慶次の実の家族たち、
さらに慶次を狙うものたちの内情などが描かれる。
前田慶次が、石田三成の息子を育てているなど、
「いかにも」な設定はあるものの、
なかなか面白そうな話になっている。

が、正直に言ってしまえば、
このドラマを見始めた当初、なんともいえない違和感があった。
なんのことはない、前田慶次が老人だったからである。

自分が、最初に前田慶次に触れたのは、
マンガ「花の慶次」であった。
このマンガの中では、主人公・前田慶次は最初から最後まで
見た目が変わることが無かった。
加賀藩の資料では、前田慶次の没年齢は
73歳ということになっているので、
マンガの最終回の時点では、
60歳を越えていたことになるのだが、
慶次の見た目は連載開始時のままであった。
仮に彼の養父・前田利久が亡くなった年に
金沢を出奔したのだとすれば、
その当時の慶次の年齢は48歳ということになり、
連載初期の彼は、とんでもない若作りをしていたことになる。
すくなくともマンガのキャラクター造形を見る限りでは、
20代後半から30代ぐらいに見える。
マンガでは、その異様に若い見た目のまま、
全編を通していたのであるが、
これは慶次の若々しさを見せる、1つの演出だろう。

このマンガのビジュアルイメージがあったために、
ドラマに出てくる年相応の外見をした慶次に、
なんともいえない違和感を感じたのである。
だが、先に書いた通り、実際の慶次の年齢は
ドラマの方が正しい。
事実、ドラマを見続けているうちに、
この、おかしな違和感は消え、
老「慶次」を自然に受け入れることが出来た。
前田慶次を演じる藤竜也の、飄々として深みのある演技は、
マンガで植え付けられた、誤ったイメージを
きれいに払拭してくれたのである。

ストーリーは順調に進み、物語は大詰めを迎えた。
次回、6月18日の放送を持ってこのドラマは最終回となる。
去年の「官兵衛」以降、久々の
NHKの面白いドラマであった。
果たしてラストがどういう「締め」になるのか?

楽しみに放送日を待ちたい。

Related Articles:

にほんブログ村 その他生活ブログ 雑学・豆知識へ
にほんブログ村

スポンサーリンク
スポンサーリンク

-歴史, 特撮、テレビ, 雑感、考察

Copyright© Falx blog 2 , 2024 All Rights Reserved Powered by STINGER.