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ホタル

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By: kiukey

一般的に、ホタルは水のきれいな所に棲むといわれる。

逆説的にいえば、ホタルの棲んでいる所は、
「水がきれいだ」ということができる。
……。
実はこれ、結構、曖昧である。
というのも、自分が子供のころ、うちの近くの用水路にも
わずかながらもホタルがいたのだが、
それほどきれいな水ではなかったからだ。
自分が子供のころは、
まだ龍野市の全域に、下水道は整備されていなかった。
トイレなどは汲取式(くみとりしき)のボットン便所で、
便槽(トイレについている糞尿を入れておくタンク)が
一杯になると、市のし尿処理業者に頼んで、
バキュームカーによる汲取を行なっていた。
しかし、自分の住んでいる龍野市揖西町は畑も多く、
多くの家庭では、自分の家で出たし尿を畑に撒いていた。
その時の悪臭たるや強烈なもので、
午後の3時以降にでも「これ」をやられると、
その悪臭は、晩ご飯の時間になっても漂っており、
たとえ夏の暑い季節であったとしても、
家のサッシ窓を開け放すことは出来なかった。
うちの婆さんは、意外にその辺りのことがズボラだったので、
いつも夕方近くに「肥え撒き」をしては、
晩ご飯を作っている母親に、文句を言われていた。
……。
話がずれた。
つまり下水道が完備されていなかったとはいえ、
少なくとも、し尿は川には流れ込んでいなかった。
川に流れ込んでいたのは、台所や風呂場、
洗濯機などから出る家庭排水で、
いくつかの家庭では、これを一度備え付けの浄化槽を通し、
幾分かきれいにしてから、川へと流していた。
しかし、多くの家庭では、
この家庭排水をそのまま川に流していた。
だが、下水道が整備されていなかった割りには
川はひどく汚れることもなく、
魚なども相当数、生息していた。
そしてこの、下水道が整備される以前の川に、
「ホタル」が飛んでいたのである。

ホタルは、コウチュウ目ホタル科に分類される、
昆虫の総称である。
おもに熱帯から温帯にかけての、多雨地域に分布しており、
世界には、およそ2000種のホタルが生息している。
日本にも40種類ほどのホタルが存在しているが、
この中で、我々がホタルとして認識しているのは
「ゲンジボタル」で、
一般的に「ホタル」といえば、これをさしていることが多い。
本州以南の日本各地に分布しており、
5〜6月にかけて羽化し、成虫になって川辺を飛び回る。
その最大の特徴は、尻の部分が発光することで、
ホタルがその光を点滅させながら、夜の川辺を飛び回る姿は、
初夏の風物詩となっている。
発光のパターンは東日本と西日本で違っており、
発光のテンポは西日本の方が速い。
新潟、長野、静岡をつなぐラインを境にして、
このテンポは変化しているが、
このライン近くでは、東西の中間のテンポで
発光している地域もある。
人間でいえば、東京人よりも大阪人の方がイラチ(せっかち)だと
されることが多いが、
ホタルの場合も、西日本の方がイラチなようである。

「ホタル狩り」という言葉があるが、
もちろん、ホタル捕まえたりするようなことはなく、
実際にやることは、ただの「ホタル鑑賞」である。
ホタルは成虫になってからは、2週間ほどしか生きられない。
そのため、ホタルを捕まえてもまともに飼育することは出来ず、
結局は弱らせて、死なせてしまうだけである。
どうして、そのようなことになるのか?
実は、ホタルは成虫になると口が退化してしまう。
ものを食べることが出来なくなり、
水を飲むことしか出来なくなってしまうのである。
そのため、成虫になってからは、
幼虫期間に溜め込んでおいた栄養を使いながら、
生きていくことになる。
いわば断食状態である。
その状態で、成虫は異性にアピールし、生殖行動を行ない、
産卵して死んでいくのである。
「ホタル狩り」の際に、「こっちの水は甘いぞ」と
ホタルを呼ぶ一節があるが、
この場合の「甘い水」は、
あくまでも「きれいな水」をさしており、
決して「砂糖水」のことではない。
もしこの「甘い水」が、栄養を大量に含んだ
「砂糖水」のようなものなら、
成虫の寿命も延びるかも知れない。

ホタル、特にゲンジボタルは、
古来から日本で人気のある昆虫の1つで、
「日本書紀」や「万葉集」の中にも
ホタルに対する記述が見られる。
もちろん「ゲンジボタル」というのは、
「源氏蛍」ということになるので、
その名前が付けられたのは、
源平の合戦後の鎌倉時代以降のことだろうが、
それ以前に、「ゲンジボタル」が
どう呼ばれていたのかはわからない。
この「ゲンジボタル」という名前の由来については、
無念の最期を遂げた源氏の武将・源頼政の亡霊が、
ホタルとなって敵と戦うという伝説がもとになっている。
また、これとは別に、
「源氏物語」の主人公・光源氏が
もとになっているという説もある。
「光る」ホタルに「光源氏」を引っ掛けたのである。
怨念に満ちた先の説に比べると、
随分と風流な説である。
ただ、ひとついえることは、
あくまでも「ゲンジボタル」が先に名付けられ、
それにひき比べるようにして、
「ヘイケボタル」が名付けられたということである。
あくまでも「ゲンジボタル」がメインで、
「ヘイケボタル」がサブである。
「ゲンジ」メインで考えるのであれば、
「光源氏」説よりは、「源頼政」説の方が説得力がある。

さて、冒頭に書いた通り、
「ホタルが棲んでいる」ということは、
「水がきれいである」ということを意味しているため、
一時期はあちこちの自治体で、川にホタルの幼虫を放流していた。
上手くホタルが定着し、大量のホタルが飛び交うようになれば、
それは水がきれいなことの、分かりやすい証明になるし、
なにより「ホタル狩り」を目的とした、
多くの観光客を呼び込めるようになる。
だが、普通に考えれば分かるように、
ホタルの生息していない自然環境の中に、
大量のホタルの幼虫を放流すれば、
当然、自然の生態系は大きく損なわれるようになる。
ホタルの幼虫が、エサとなるカワニナをはじめ、
様々な生物に圧力をかけるからである。
しかし、ホタルという生物のその儚さ故か、
そういう点については、ほとんど論じられる事なく、
あちこちの河川にホタルがバラまかれている。

これからはホタルの儚さを免罪符にして、
幼虫を大量にバラまくような真似は止め、
生態系への影響を良く考えた、
より自然な、ホタルの繁殖をしていかなければならない。

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