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コンビーフ

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缶詰の形状には、様々な種類がある。
円筒形のものは基本としても、
長方形のものなども、缶詰売り場には多く並んでいる。

そんな缶詰の中で、もっとも特異な形が「枕型」である。

え?「枕型」って何?そんなの聞いたことも、
見たこともないよ?という人もいるだろう。
実は正式には「枕型」なのだが、「台形」といった方が、
パッとイメージしてもらいやすいかと思う。
缶の上面も、下面も長方形をしているのだが、
上面と下面の大きさが違うのである。
具体的には上面の方が、下面よりも小さくなっており、
全体的に見た場合、缶自体が台形をなしているのである。

こういうと、あ、あれか、と思う人も出てくるだろう。
そう、「コンビーフ」の缶詰である。

「コンビーフ」というのは、使う人と使わない人に
はっきりと別れてしまう食材である。
使う人は結構な頻度で使用し、様々な料理にこれを使う。
使わない人は、全く使わず、
缶を手に取ってみることもない。
缶詰になっているので、常温でも長期間の保存がきくが、
非常食とすることは、あまりないだろう。
大方の場合、買ってきて大して間もおかずに
料理に使ってしまう。

この「コンビーフ」の缶詰の大きな特徴が、
その開缶方式にある。
現在では、ほとんどの缶詰が
プルトップ方式を採用しており、
缶切りを用意して、
キコキコと缶を開けていくということは、
無くなってしまった。
噂によれば、プルトップ式でない、
昔通りの缶詰を見た若い人が、
「不良品だ!」と気色ばんで、
メーカーにクレームを入れることもあるという。
そう、最近の缶詰しか見たことのない人には
信じられないかもしれないが、
昔の缶詰にはプルトップはついておらず、
缶切りという特殊な道具を使わないと、
缶詰を開けることが出来なかったのである。
……。
話がそれた。
つまり、自分がいいたかったのは、
昔は缶詰を開けるためには
「缶切り」が必要だったということなのだが、
実は昔の缶詰でも、唯一、
缶切りを使わずに開けることの出来た缶詰が、
この「コンビーフ」だったのである。
一体どのような仕掛けになっているのか?

一見したところ、「コンビーフ」の缶詰にも
プルトップはついていない。
しかし、缶全体を良く見てみると、
恐らく缶の底かフタの面に、
小さな金属の棒状のものがついている。
片方の端が丸形か四角に折り曲げられており、
もう片方の端には細長い穴が空いている。
缶の側面からは小さなポッチが飛び出しており、
そのポッチを穴に入れてクルクルと巻いていく。
するとそれに巻き取られるようにして、
缶の側面に切れ目が入る。
そのままクルクルと巻き続けていくと、
缶の側面をくるりと一周し、
缶が上下に2分割されてしまうのである。
2分割されれば、上の方を持って取り外せば、
缶の形状にビッチリと固まったコンビーフが
姿を現すのである。

さて、目の前に現れた、なんだかよくワカラナイ物体。
確かにどことなく肉のような色はしているのだが、
質感はモロモロとしていて、
箸などでつつけばあっさりと崩れてしまう。
言い方は悪いが、まるでサビキ釣りに使う
アミエビのブロックのようである。
これは一体なんなのか?
一応、コン「ビーフ」とついているからには、
牛肉なのだろうが、一体どんな加工をすれば、
こんなモロモロ状態になるというのだろう?

コンビーフの歴史を遡っていくと、
はるか古代の「牛肉の塩漬け」まで、行き着いてしまう。
もちろん、牛肉の塩漬けとコンビーフは、
全く別ものである。
現在、我々が食べているコンビーフは、
牛肉を茹でてほぐし、粗塩で保存処理をして、
押し固めて缶に詰め込んだものである。
「コンビーフ」は、正式には「コーンド・ビーフ」であり、
「コーン」は「corn」、「とうもろこし」と同じ綴りだが、
意味は違っていて「塩の粒」という意味になる。
要は「粗塩」のことであり、
「コンビーフ」は
「粗塩で漬け込んだ肉」という意味になる。

缶詰としてのコンビーフが発達したのは、
アメリカの南北戦争(1861~1865年)のときで、
戦時の携帯食として発達したものと思われる。
コンビーフの代名詞ともいえる「枕缶」にしても、
1875年にアメリカのシカゴで特許が取得されている。
以降は、コンビーフといえば「枕缶」ということで、
現在まで使われ続けている。
(一応、ここで「枕缶」について書いておくと、
 日本で近世に使われていた箱枕の形に近いもので、
 箱枕は、台形の箱の上に枕のついたものである。
 江戸時代劇では、身分の高い人間の枕として出てくる。
 また、ネットで画像検索してみれば、
 箱枕の画像が出てくる。
 この箱の部分が、コンビーフの缶の形に似ている。
 もちろん、この「枕型」という言葉が通じるのは
 日本国内だけでの話である)

「枕缶」は大きい面(底面)から
コンビーフを詰め込んだときに、
缶の中に空気が残らない作りになっている。
もっとも最近の技術だと、
たとえ円筒形の缶であっても、
中に空気を残さない詰め方が、可能である。
そういうわけで、かつて、コンビーフを円筒形の缶で
発売したことがあったのだが、
「コンビーフらしくない」
と、大変な不評であり、売り上げも激減した。
そのため、慌てて「枕缶」に戻したという逸話がある。

ちなみに缶詰売り場をよく見てみると、
その中に「コンビーフ」ではなく、
「ニューコンミート」と書かれたものがある。
実は「コンビーフ」というのは、
牛肉100%のものでなければ名乗ることが出来ない。
現在では、牛肉ではなく、
馬肉などを中心にした、「雑肉」を材料にした
「コンビーフ」が作られており、
これを「ニューコンミート」として販売している。
こちらの方は、安い肉を原料にしているだけあって、
「コンビーフ」に比べると、
かなり安価で購入することが出来る。

本来、コンビーフは冷蔵や冷凍の技術がない時代に、
肉を常温で長期保存するために、作られたものである。
そういう意味では、冷蔵・冷凍技術が進歩して
一般的になった現代では、
すでに無くなっていてもいい筈の商品である。
しかし、相変わらずコンビーフは支持され、
スーパーの缶詰売り場の一画に鎮座している。
保存のための加工が、他にない味を作り出し、
それが人々に受け入れられたためである。

これから先も、この珍しい缶詰肉は、
その独特の缶とともに、人々に愛され続けていくだろう。

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