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ワサビ

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現在では、それほどいわれることもなくなってきたが、
日本人が魚を「生」で食べるというのは、
外国人にとっては信じられないことだったようだ。

最近では、日本食ブームということもあり、
外国でも寿司が人気になっているらしいが、
自分が子供のころはまだ、魚を「生」で食べることに
外国人は抵抗を持っていた。

しかし考えてみれば、これも無理からぬ所はある。
日本でも、ごく一部を除いては
「淡水魚」を生で食べることは少ない。
普通にスーパーの鮮魚コーナーを見てもわかるとおり、
魚の生食、つまり「刺身」として販売されているのは、
「海水魚」ばかりである。
これは「淡水魚」と「海水魚」に寄生している
寄生虫の種類の違いによる所が大きい。
「海水魚」に寄生している寄生虫は、
仮に人体に移ったとしても、
そこで生きていくことが出来ない。
アニサキスなどは、淡水魚にも海水魚にも寄生するが、
これも人間の身体の中では、2週間ほどしか生きられない。
実際に、これまでにアニサキスによる死亡例は
1件も出ていない。
(とはいえ、アニサキスは人間の胃腸を
 食い破ろうとするため、ひどい腹痛に襲われる。
 死ぬことはないが、ひどい目にはあうということである)
ところが「淡水魚」に寄生している寄生虫は、
普通に人間の体内で生きていくことが出来る。
寄生虫の種類によっては、命を落とすこともある。
寄生虫の危険性、という視点で見れば、
「淡水魚」は「海水魚」よりも、はるかに危険なのである。
魚を「生」で食べることにかけては、
世界一精通している日本人が、
ほとんど「淡水魚」を生食しないのは、
それだけ「それ」が危険だからである。
その日本人が食べない「淡水魚」を、
外国人たちが生食することは、あり得ないだろう。
では、「海水魚」はどうか?

日本は、四方を海に囲まれている。
すなわち、新鮮な「海水魚」が入手しやすい環境である。
だが、冷凍・冷蔵技術が発達するまでは、
そんな日本でさえ、海に近い場所以外では
魚を「生」で食べることは出来ず、
干物に加工したり、塩漬け加工したものしか
食べることが出来なかったのだ。
アメリカなど、海に面している国であったとしても、
その国土のほとんどの地域では、生の海水魚など
目にすることもなかっただろう。
そんな国では、仮に誰かが魚の生食を始めたとしても、
それが国中に広がっていくこともなく、
むしろ気味悪がられ、異端視された挙げ句、
それを止めさせられるのがオチだろう。

そういう国土的条件を顧みれば、
魚を「生」で食べることの出来る国というのは、
かなり少なくなるだろう。
日本と同じくらい、周りを海に囲まれていて
「海水魚」の入手が容易く、
なおかつ、日本と同じくらい
気温の「低い」国ということになる。
日本より気温の高い国では、それこそ魚の腐敗が早く、
魚の「生食」が難しくなってしまう。
世界地図を見てみれば、
そのような条件を兼ね備えている地域は少ない。
イギリス、ニュージーランドくらいである。
しかし、それらの国でも「刺身」のような
「魚」の生食は生まれていない。
これは恐らく、調味料のせいではないかと考えられる。

日本で生魚を食べる際、使われる調味料は
「醤油」「酢」「味噌」だろう。
このうち、「醤油」と「味噌」は日本特有のものであり、
「酢」も、日本の場合はコメを醸造した「米酢」である。
日本で登場したこれらの調味料が、
たまたま「生魚」の臭いなどを
抑えることの出来るものであったため、
日本で魚の「生食」文化が、発達したのだろう。
そしてもうひとつ、
「生食」をするための助けになったのが、
「ワサビ」という、日本独特の香辛料である。

ワサビはアブラナ科ワサビ属に属する、多年生草本だ。
日本が原産地であり、世界でも日本にしか分布していない。
世界的には極めて限定的な分布だが、
日本国内では北海道から九州まで、広く分布している。
主に山深い渓流など、
1年を通じて冷涼な場所に生えている。
学名も「ワサビ・ジャポニカ」と、
日本語のまま「ワサビ」という言葉が使われている。
「ワサビ」という言葉の語源については、
「悪障疼(わるさわりひびく)」が
変じたものともいわれるが、はっきりとはしていない。
何か身体に悪いもののようにも思えてしまうが、
元々ワサビは食品ではなく、薬品として使われていたため、
「悪いものに効果がある」というような
意味だったのかもしれない。

現在では、漢字で「山葵」と書くが、
これが最初に文献上に出てくるのは、
918年に書かれた「本草和名」で、
これ以前の文献では、「和佐比」などと書かれている。
これは一種の宛て字(万葉がな)だろう。
もっとも古い記録としては、
685年に書かれたとされる木簡で、
飛鳥宮跡から出土したものに「委佐俾三升」とあった。

ワサビは、強い刺激性のある独特の香味を持っているため、
よく「薬味」として使われる。
一般的に知られているのは、
その根茎をすり下ろしたものであるが、
別段、根茎だけが香気を持っているわけではなく、
葉、花、茎など全草に香気がある。
葉や茎、などは天ぷらやおひたし、
醤油漬けなどにして食べることができる。
根茎の方は、そのまま細かくすり下ろして
刺身や蕎麦の薬味に使ったり、
細かく刻んで酒粕に漬け込み、わさび漬けにする。
薬味として使う場合、
ワサビの辛み成分は揮発性のため、
醤油の中に溶かし込んでしまうと、
その辛みがほとんど無くなってしまう。
刺身の上にワサビをのせて、醤油につけるようにすれば
辛みをしっかりと味わうことが出来る。
さらにいえば、すり下ろしたワサビを
長時間放置していても、
空気中へと辛み成分が揮発してしまうので、
あまり長く放置しておくのは、お勧めできない。
なるべく細かくすり下ろした方が辛みが出るので、
目の小さいおろし金ですり下ろすか、
鮫皮ですり下ろすとよい。

とはいっても、一般家庭の場合、
生の本ワサビをすり下ろすなどという機会はなく、
大半がチューブ入りのワサビを使っていることだろう。
チューブ入りのワサビでは、
安価な西洋ワサビを使っているものもあるので、
そういうものを避けたい場合は、
原材料表示をよく確認するようにしよう。
(市販の刺身についている、小袋入りのワサビは
 ほとんどが西洋ワサビを使っている)

日本原産にして、日本独特の香辛料「ワサビ」。
近年では、海外での寿司人気もあり、
外国人もその味を知るようになった。

この独特にして強烈な香味は、
はたして世界に広がっていくのだろうか?

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