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電子レンジ〜その3

投稿日:

By: ajari

前回、前々回と、電子レンジについて、
その原理や仕組みについて書いてきた。
今回は「電子レンジ」の誕生と、
その歴史について書いていく。

前回、マイクロ波について書いた際に、
これがレーダーに使われていることに触れた。
事実、第2次世界大戦中は、
マイクロ波はレーダーとして使われ、
敵機の探知に大きな役割を果たした。
日本が第2次世界大戦に敗北したのは、
このレーダー技術に大きな差があったためだともいわれる。

それほど、戦争において
大きな役割を果たしていたレーダーだが、
戦争が終わって、その需要は激減した。
そのため、アメリカのマイクロ波専門メーカー
「レーセオン社」は、レーダーの新しい使い方を
考え出す必要に迫られることとなった。

レーダーの新しい使い方を模索していた彼らは、
ある「報告」に注目した。
それは戦時中、
レーダーのマイクロ波開口部の近くにいた兵士からの、
ポケットのチョコレートが柔らかくなった、
というものであった。

これを聞いた「レーセオン社」のスペンサー博士は、
レーダーに物を熱する性質があることに注目し、
マイクロ波をポップコーンや卵に
照射する実験を繰り返した。
しかし、レーダーの導波管の先に食物を置くだけでは、
物によっては激しく飛び散り、危険であった。
この問題を解決するための方法が、
密封された箱の中で
マイクロ波を照射する、というものだった。
「電子レンジ」の素型は、このときに出来上がった。
1953年、この箱型マイクロ波照射装置は商品化され、
「レーダーレンジ」という名前で売り出された。

この「レーダーレンジ」が
1960年の東京国際見本市に出品された。
もっともこの時期には、すでに日本の家電メーカーは
このマイクロ波調理器具についての情報を得ており、
それぞれ、オリジナルの商品開発に取りかかっていた。
日本製の「電子レンジ」が完成し、
これが売りに出されたのは、東京国際見本市の翌年、
1961年のことである。
この「電子レンジ」は業務用のもので、
当時の価格で125万円という、
大変に高価なものであった。
(この年の大卒初任給が14817円。
 はがきが5円、たばこが30円、
 映画が200円という時代であった)
これらはまず、国鉄や私鉄の食堂車で使われ始め、
1964年、新幹線のビュッフェに装備され、
そのスピード加熱に注目が集まった。

家庭用の「電子レンジ」が発売されたのは、
1965年のことである。
翌1966年には、ターンテーブル方式の
「電子レンジ」が発売されたが、
1台20万円という高価格であった。

登場したばかりの「電子レンジ」は、
かなり高価格であったこともあり、
すんなりとは受け入れられなかった。
というのも、現在のように、
その特性を生かしたレシピなど、まだ存在しておらず、
出来ることといえば、冷めた料理を温め直すか、
冷凍食品を解凍することぐらいだと思われていたからだ。
またメーカーも、「電子レンジ」を
「ありとあらゆる調理が可能な、万能調理装置」
の様に宣伝しており、その宣伝文句と実際とのギャップが、
「電子レンジ」に悪いイメージを持たせた。
(「電子レンジ」はその加熱の仕組みからも、
 何でも出来る「万能調理装置」ではないことは、
 現在の我々が知っている通りである)
また、婦人雑誌などで「電子レンジ」に対する
ネガティブキャンペーンを行なわれたこともあり、
これらが「電子レンジ」の普及初期において、
大きな足かせになった。

それでも、この家庭用「電子レンジ」の発売を機に、
「電子レンジ」の普及率は少しずつ上昇していく。
1970年では2.1%だったものが、
1975年には15.8%、
1980年には33.6%、
1985年には42.8%、
1990年には69.7%となり、
2000年代に入るころには90%を越えていた。
まさに右肩上がりとしか言いようのない、
普及率の上昇である。

また、「電子レンジ」の普及に一役買ったのが、
多種多様な「多機能レンジ」である。
これは、従来の「電子レンジ」に
他の調理器具の能力を付け加えたもので、
もっとも有名なものは、
オーブンとしての機能を兼ね備えた、
「オーブンレンジ」だろう。
これは「電子レンジ」にヒーターを組み込み、
庫内を高温にすることで、
食材を「焼き上げる」機能を持たせたものである。
従来の「電子レンジ」では、マイクロ波によって
水分子を加熱させるため、
食材を100度以上に加熱することは、不可能であった。
(実際には、油を多量に含んでいる食材ならば、
 100度以上に加熱することも出来た。
 油の沸点は100度以上のため、
 水よりは加熱に時間はかかるものの、
 加熱し続けることにより、
 100度以上に加熱できるのである。
 また、砂糖水のように
 水に何らかの物質がとけ込んでいる場合、
 100度以上に加熱できることもある)
しかし、ヒーター機能を組み込むことにより、
100度以上の高温で、
食材を「焼き上げる」ことが可能になり、
調理の幅を大きく広げることになった。

水分子を急速に加熱できる「電子レンジ」は、
もともと「蒸し料理」が得意だが、
近年では、庫内に蒸気を充満させる
「スチーム機能」をもった「電子レンジ」も登場し、
さらに「蒸し料理」が得意になった。
これは「オーブンレンジ」のように、
従来の製品にはない機能を付けるのではなく、
従来の機能を、さらにハイレベルに
行なえるようにしたものである。

さて、30年前にうちにやってきた、オーブンレンジ。
恐ろしいことに、この30年間、壊れることもなく、
いまだに働き続けている。
かつては、妹がケーキやクッキーを作っていたが、
現在では、オーブンとしては使われることもなく、
ひたすら「電子レンジ」として使われる日々である。

いくら多彩な機能を付け加えようとも、
結局は「電子レンジ」として使われる。

我が家の「電子レンジ」は、そういう運命のようである。

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